シンプソンズ・ファンクラブ・ブログ

「ザ・シンプソンズ」を日本で広めるために日本語吹替版のエピソードガイド、グッズを買えるお店の紹介、大平透さん使用のアフレコ台本の研究、等々を掲載しています。

大平さんのシンプソンズ台本:シーズン2、第16話「迷犬S・リトルヘルパ―:Bart's Dog Gets an "F"」

シーズン2、第16話「迷犬S・リトルヘルパ―:Bart's Dog Gets an "F"」March 7, 1991
(日本初回放送:1993年1月10日、録音日:1992年12月3日)

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愛犬家でもあった大平さんならではのテクニックが詰まったエピソードです!


<以下、ネタバレになります>


【画面】(台本上の通信欄)

・01:59 ヘルパーには相手の言う事が分からないというイミなのでこのままADでお願いします。

ヘルパーは人の言うことがよく聞こえていないというシーンなので、大平さんにアドリブで言葉にならない声でホーマーを演じて欲しいという指示。

・02:38 ※クラスティ事件の話で同じ人形登場

ここでいうクラスティ事件とは、S1「クラスティは強盗犯?」のこと。
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徐さんやスタッフの方が細かい部分までちゃんと記憶されて制作に臨まれていたことが分かる、視聴者としてもとてもうれしい注釈ですね。
このように、シンプソンズはシリーズ通して台本上に以前のエピソードについて参照したコメントが書かれていることが多いのです。

・03:53 字幕「絶対壊れない」

・04:41 原音は シルビア・ウィンフィールドと言ってます
(3話)でウィンフィールドとして登場、(15話)でマッドフィールドとして登場
15話ではホーマーが“マッドフィールド”と声を出して言っています
これからはマッドフィールドにしたいのですが、この先、表札が見える事があるかもしれませんので以下のようにごまかしました


3話はS1「ヒーロー誕生」、15話はS2「髪と共に去りぬ」のこと。
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初期シーズンのご近所さんウィンフィールド(Winfield)夫妻の名前について、他のエピソードとの整合性を持たせるために、とにかく気を遣って制作されていたことが分かる通信欄ですね。
なお、本エピソードでごまかしたというのは、シルビアさんが自分のことを「シルビア・ウィンフィールド」と言っている部分を「近所のシルビア」にしている部分のこと。ごまかしていると言いつつも、そこを「近所のシルビア」にする翻訳家の徐さんのセンスが素敵です!

・05:57 ベルクロ マジックテープの商標
今や日本でもアパレル用語で当たり前に使うようになりましたね。
翻訳でアレンジせずそのまま使用したことが今になって活きてくる好例です。
いつ見ても古く感じさせないのが良い日本語吹き替え!

・15:41 原音 家族会議なんてやった事ないのに→前に相談めいた事はやったので変更しました
S1「ホーマーの大決心」のことを指しているものと思われます。
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こちらも翻訳家の徐さんとスタッフの方が1チームで制作していたからこそできる気づきですね。
ただし、最終的には原音を生かした上記のセリフがそのまま採用されており、ある程度エピソードによって設定が変動するシンプソンズの特性を尊重したようです。
どちらにしても、とにかくこだわられて制作されていたのが伝わってきますね。

・17:10 ※調教は日本でも英話を使ってるようなのでそのまま使います
画面欄は上記のようになっていますが、最終的な音声欄では「転がれ」「お座り」等、日本語化されているため、当時の子供から大人まで幅広く楽しんでもらうための番組作りを心がけていたWOWOWだけあって、すべて翻訳する判断がなされたようです。

・21:53 字幕「バディ 家出」「ラオツー 毒を食べて昏睡」「ヘルパー バートを噛む」


【音声】

・01:36 ヘルパーに新聞をいらずらされるホーマー

台本上は「離せってば!サンタズリトルヘルパー やめなさい スポーツ欄が破れるだろ」とあるところ、最終的な音声では「離せってば!この~ サンタズリトルヘルパー やめなさい スポーツ欄が破れっちゃうだろうが ほら~になっています。
さすが大平さん、セリフにとにかく躍動感が出ますね。

・01:54 食卓に近づくヘルパーを注意するホーマー

台本上は「バカ!」なのですが、大平さんによって手が加えられ「コラ!」になっています。
直前で「バカ犬」という表現が出てくるため、「バカ」の頻度が高いと考えられたのか、こちらではちょっとソフトな表現にアレンジされています。

・02:38 君の友達だよ!
同じセリフを連呼するクラスティ人形。
ハイテンションのまま叫び続ける島田敏さん、さすがのパワフルさです!
ちなみに島田さん、近年では「チャイルド・プレイ」関連作で、チャッキーを担当されています。

・04:31 クイック・E・マートにお邪魔するヘルパー
アープ―のセリフは台本上「ノラ犬が!しっしっ」となっているところ、最終的な音声では「ノラ犬め!しっしっ」になっています。
怒っているため、普段より力強いイメージのアープ―になっています。

・05:09 シルビアさんに怒鳴るホーマー

台本上は「もう一回言いますからよーく聞いてなさい そしたら切りますからね うちの犬は私がこの手で裏庭につないだんだから違うんだよ!」とあるところ、大平さんによって手が加えられ「もう一回言いますからよーく聞いてなさい そしたら切りますからね それはうちの犬じゃないんだよ うちの犬は私が絶対壊れない首輪でつないだんだから違うんだってば!」になっています。
「裏庭」というワードはオチの部分で使うからか、ここでは使わずに、とにかくシルビアさんの主張を認めないホーマーを大平さんがセリフのアレンジによって演出されており、オチをより強いものに仕上げられているわけですね。声優界のパイオニア大平さんの職人技が光ります!

・05:41 フランダースをバカにするホーマー

宇宙旅行にでも行くのかと思った」の後の笑い声は、原音でもフランダースをバカにしたわざとらしい笑い“Ha ha”なのですが、吹き替え版では大平さんが同時期に収録されていた、あのせぇるすまんよろしく「ホーッホホホ」になっていて、これまた最高です!
S2「良心の呵責」では使用されていなかった、せぇるすまんネタが本エピソードでは使用されていたのかと、台本を見たからこそ分かる発見で楽しいですね。

・07:23 リサにお遣いを頼まれるホーマー

台本上は「ああ、分かった買ってくよ それじゃ後で おいレニー早退するから後頼める?」とあるところ、大平さんによって手が加えられ「アイヨ、分かった買ってくよ それじゃ後で おいレニー早退(ハヤビキ)するから後頼むよになっています。
大平さんホーマーの返事、語尾の処理の仕方に、優しさが溢れています。

・08:47 モールでアサシンズを見つけて興奮するホーマー

台本上は「あー100ドルとんで25ドル」とあるところ、大平さんによって手が加えられ「あー10025ドル」になっています。
興奮しているホーマーを意識してか(あと聞きやすさも意識してか)、短めにアレンジされたものと思われます。

・09:17 アサシンズを履いてゴキゲンにご帰宅のホーマー
ここからのホーマーとバート、マージの掛け合いがハイテンポかつパワフルで、聴きごたえが凄すぎます!注目です!

・09:37 言い訳をするホーマー

台本上は「お前だって火災警報器買ったけど一度も鳴ってない!」とあるところ、大平さんによって手が加えられ「お前だって火災警報器買ったけど一度も鳴ってないじゃないになっています。
マージの「ん~っ」ギリギリまでホーマーのセリフを詰め込むことで、よりホーマーのつべこべ言ってる感が出ますね。

・10:10 アサシンズを見て大絶叫するホーマー

大平さんのパワフルな大絶叫!これ、他の誰にも真似できません!

・10:56 トレイシー・ウルマン氏演じる調教師・エミリー登場
鬼調教師エミリーを演じられたのは、2022年にお亡くなりになられた、滝沢久美子さん。
ふしぎの海のナディア」のグランディスもそうですが、とにかく気が強い女性キャラのお芝居が、この役にもピッタリです!

(ちなみに、グランディス一味のハンソンは、2代目ネルソン役の桜井敏治さん)

・13:33 ハワイアンクッキー店
店員の女性の声は、バート役の堀絢子さんの兼役。ちなみに、原語版もバート役のナンシー・カートライト氏がアテられてます。

・13:54 店側の戦略に引っかかりクッキーを買ったホーマー
台本上は「このクッキーの所有者は・・・ホーマー・・・J・・・シンプソンである・・・手を出すな」とあるところ、最終的な音声では「このクッキーの所有者は・・・ホーマー・・・J・・・シンプソンである・・・だから手を出すな」になっています。
警告文として、より文章としての表現を意識され、大平さんがアレンジされたようです。

・15:48 マージにどういうことか問われたホーマー

原音では“I'm saying...(つまりオレが言いたいのは...)”とあるところ、吹き替え版では「どう(胴)も頭もない!」になっています。
原音同様に結局ホーマーのしたいことは分からないまま、オリジナルの意味は変えずに、日本語の言葉遊びのセリフに仕上げる徐さんの翻訳のセンスに感服です!

・16:26 ヘルパーの現状を嘆くマージ
台本上は「それにお金を使って学校にやっても全然良くならないし」とあるところ、最終的な音声では「それにお金を使って学校にやっても全然良くならないじゃないになっています。
マージの口パクに合わせるためのセリフの追加でありつつも、マージのちょっと険しい表情にぴったり合わせられた一城さんのお芝居も素敵です!

・16:53 リサの演説に心が動かされたホーマー

台本上は「《 》あーリサ またパパが間違った方に行こうとしたら お前がさとしてくれな」とあるところ、大平さんによって手が加えられ「《クシュ・・・》あーリサ またパパが間違った方に行こうとしたら お前がさとしておくれになっています。
情けなく泣き出すホーマーの声色もとにかく味わい深い!

・17:31 里親募集をフライングするホーマー

台本上は「優しい方へ無料で、世界一利口な犬“アイラブユーと言えます”」とあるところ、大平さんによって手が加えられ「優しい方へ差し上げます_利口な犬です“アイラブユーと言えます”」になっています。
こちらも箇条書き形式ではなく、文章的な表現に変更されています。
視聴者の耳で聞いたときの耳当りまで意識して、大平さんが演出されたようです。

・18:31 ヘルパーに待てをするバート

17:10の画面欄にあるように、台本上は「ステイ」になっていますが、最終的な音声では「待て」になっています。

・20:06 キルト作りを一から始めるリサ
こちらのシーンでは台本と最終的な音声ではセリフが変わっており、現場で変更されたものと思われます。

台本:リサ「ヘルパーが破いたキルトをモチーフにしたんだけど」→マージ「まぁ イキな事するわ この子は」
音声:リサ「これは前のキルトへの惜別の情を込めて作ったの」→マージ「まぁ 雰囲気がよく出てるわ」
(原音:リサ“This patch commemorates the destruction of the old quilt.”→マージ“Well,you certainly captured the moment.”)
最後の最後までこだわりがとにかく尽きません!!エクセレント!!

・21:47 なんだかんだ祝福してくれるホーマー

喜びの声から表情まで浮かんでくるような大平さんの表現にも注目です!