シンプソンズ・ファンクラブ・ブログ

「ザ・シンプソンズ」を日本で広めるために日本語吹替版のエピソードガイド、グッズを買えるお店の紹介、大平透さん使用のアフレコ台本の研究、等々を掲載しています。

大平さんのシンプソンズ台本:シーズン1「ヒーロー誕生」

シーズン1「ヒーロー誕生:Homer's Odyssey」January 21, 1990(日本初回放送:1992年9月26日、録音日:1992年9月3日)
f:id:simpsons333:20220202223123p:plain
simpsons333.hatenablog.com
表紙にあるように、当初の邦題は、原題を基にした「ホーマーのオデュッセイアで予定されていたことが分かります。

また、録音日に注目していただくと分かるように、前回ご紹介した「バートは天才?」と録音日が同じ。つまり、番組立ち上げ時は週1収録で2本録りされていたわけです。


<以下、ネタバレになります>


【画面】(台本上の通信欄)

03:08 字幕廃棄物処理場

04:13 "There lies a steel driving man"
音声欄には「デアーライズ・スチールドライビン マン…」カタカナ表記で記載がされていますが、画面欄にはローマ字表記の歌詞が記載されています。

04:55 字幕原子力

06:18 字幕「危険 放射能」「自分の責任で」「楽しい見学を」

07:32 字幕「警報」

09:13 「原音 心臓を切り刻んでやる→過激なのでかえました」
バートの本編ファーストイタ電に激昂するモーですが、直訳は生々しいので「いつかとっつかまえてはり倒してやる」と、マイルドに変更をしているとの事務連絡。

11:31  字幕「心配しないでパパ 無職でも愛します」

12:49 「ホーマー石を抱えて出ていく」
シーンの状況説明。

13:26 「奥様は魔女の隣のオバサンのノリで」
シンプソン家の初期のお隣さん:ウィンフィールド夫人の演じ方のイメージが。

14:09 「車 来る」
シーンの状況説明。

14:49 字幕「市庁舎」

16:03 字幕「シンプソン 安全を運ぶ」「尊敬を集めるホーマー」「シンプソン 再びストライク」「ホーマーが行くぞ」「もう十分だ!」
併せて、16:17「サインだらけの公園」との状況説明も。

17:05 「原子力発電所
シーンの状況説明。

17:08 「スピードバンプ アスファルトの段でスピードダウンの為に道路に横切らせてつける」
セリフに出てくる専門用語解説。

17:49 「原音はチャップリンではなく"ジョールソン"です」
ホーマーを見てバーンズ社長が言ったチャップリンが復活したようだ」というセリフが、原音から変更されていることを明記しています。
日本人に分かりやすく、かつオリジナルの人物(アル・ジョルソン 1886-1950)と同年代の人物(チャールズ・チャップリン 1889-1977)へのアレンジと、変えるにしても滅茶苦茶な変更をしていないところに、丁寧に作られていたことが伝わってきます。
併せて、「昔の歌手 役者」との説明も。

18:02 「ホーマー…声を大にして言いたい事があります 発電所の安全管理は非常にずさんです」
バーンズとスミサーズの会話の後ろでのホーマーの演説は、音声欄ではなく画面欄に記載されています。
また、大平さんがセリフ部分に丸をつけた上で"別"とのメモ書きをしていることから、別録りされたことが分かります。


【音声】

01:31 生徒達《ガヤ》「お菓子もってきた? えー俺もってないよずるいー 今日何時におきた? いつもと同じ 昨日のテレビ何みた?」
児童たちのガヤ(その他大勢の声)のセリフも音声欄にしっかり記載されています。

01:52 オットー「《 》待たせてご免なあー」の後、台本には「ゆうべパーティやってグチャグチャでさあー」とあるところ、最終的には「ゆうべのギンギンパーティはイコール遅刻ってわけさ」と、オットーの危なさがよく出ているセリフに変更されています。

02:13 イレズミを入れたいバートに対してのオットーのセリフが「《笑う》ガキはダメだ14になるまで我慢しな」とあるところ、「《笑う》おチビちゃんは14になるまで我慢しな」に変更されています。
"ガキ""おチビちゃん"に変えたことで、オットーのワルなんだけど子供には優しいところが伝わってくるセリフに変身しています。

03:06 生徒達《ガヤ》「あーアレ見て 手ェふってる こんにちはー おもしろーい」

04:13 バートの歌、台本上は「♪タラタラタラタウォ!バートが墓場に連れていかれた《ウン》砂に埋められた《オーイェー》墓場を通るやつはみんな言う
デアーライズ・スチールドライビン マン ロード…」
とあるところ、「♪タラタラタラタウォ!バート墓場に連れてった《ウン》砂の中に埋められた《オーイェー》墓場を通るやつはみんな言うそこに眠るはスチールドライビンマン…」に変更されています。
現場で実際に歌ってみて、よりリズムにハマるような、かつ分かりやすくなるように配慮された歌詞変更ですね。

05:36 ウラン①②③《ガヤ》「やったあプールだ つめたそう 行け行け万才!」
スマイルジョ―くんに誘導され、プールに飛び込むウランたちの声。

06:14 初登場の黒人スミサーズのセリフ、台本上は「さあー…次はいよいよ見学です」とあるところ、「さあー…これからもっと面白いんだぞー」に変更されています。
小学生見学モードに切り替えて話してる感じが、スミサーズらしくてナイスなセリフです!

06:49 シェリーとテリーに父親をディスられるバートのセリフ、台本上は「ウソ言うのかと思った」とあるところ、大平さんが"ウソ言う"の部分を消し、"ケナシてる"と書き加え、セリフが変更されています。
悪口を理解しきれていないバートを十分に表現するための変更ですね。

06:53 ホーマー「あーうめェードーナツってのは焼きたてじゃないとうまくねえなんていう奴がいるけどありゃウソだな」 
f:id:simpsons333:20220203193909p:plain
原音では、”You know, I defy anyone to tell the difference between these donuts and ones baked today.”であり、直訳すると「このドーナツと焼きたてのドーナツの違いが分かるやつなんていやしない」になるところを、翻訳家の徐さんの手にかかると、こんな華麗な訳になるんだから驚きです。
ちなみに、最初の"You Know"は、話題を変えるときに用いる「それはそうと」や「あのさ」的なものなのですが、ここで一回間が空くので、そのまま訳すとセリフとして不自然になるためか、吹き替え版ではオリジナルのセリフ「あーうめェー」が採用されています。これ、ホーマーの表情からしてもピッタリのセリフなんですよね。

07:21 バート「《ヨオ》親父!ホーマー!」"親父!"が大平さんによって消されています。
時間の都合上のカットかと思われます。

07:45 シェリーとテリーの父:フォアマンが娘たちに呼びかけるセリフ、原音では"Oh,hi,girls."のところ、台本上ではより丁寧に「あーシェリー&テリー」になっており、大平さんがさらに"&""に"に書き換え、より日本語的表現に。

08:12 ホーマー「俺は監理技術者じゃない技術管理者だ」"だ"が大平さんによって消され、"なんだ"と書き加えられています。

08:22 マージ「何言ってるのホーマー」"何言ってるの"が大平さんによって消されており、最終的には削除部分が"ほらほら"に変更になっています。
ほんの少しのセリフ変更、演技の力で、よりマージの温かさ、ホーマーへの愛が伝わるセリフになっています。

08:37 ホーマー「その通りだ!俺は若い!健康だ!何だってできる かたっぱしから当たってやる」という力強い宣言の後のセリフ「ホーマー行きます!」の前に大平さんが"よし"と書き込まれ、さらに"行きます!"を消して、勢い全開の"行くぞ!"に変更されています。

08:53 本編でのバートによるモーの店への初イタ電「そっちにフリー行ってる?」と台本上にあるところ、大平さんも"フリー"の脇に書き加えられていますが、"シーシー"に変更されており、それに伴い、次のセリフ「名前はタックス」"タックス""シタイナー"に変更されています。
f:id:simpsons333:20220202225212p:plain
ちなみに、WOWOW放送時には未放送で、シーズン6のDVD発売に際して20世紀FOXホームエンターテイメントが吹き替えを新録した、シーズン6「恋の思い出は辛すぎて」でこのシーンが再使用されるのですが、その際はアフレコ台本通り(修正前)の「タックス・フリーさん」が採用されています。
(総集編エピソードということもあり、バートの偽名の翻訳の統一を図るため、恐らく当時の台本(本作)を見ながら「恋の思い出は辛すぎて」のアフレコ台本が制作されたと思われるのですが、タックス・フリー→シーシー・シタイナーへの変更は現場で行われており、台本上には反映されていないものであるため、修正前のセリフが採用されたものと推測しています。)
simpsons333.hatenablog.com

09:13 画面欄でも紹介したマイルドになったモーのセリフ「いつかとっつかまえて…」の後のセリフが、当初は「いつまでもお前の天下は続かねえぞ」が消され、大平さんが「お前の舌をひっこぬいてやる」と書き換えられています。
f:id:simpsons333:20220202225428p:plain
過激なセリフは極力マイルドにしている中、限界まで攻めるセリフを使えるように工夫されていたことがよく分かる変更ですね。

09:26 台本上のモーのセリフ、「しょっ中名前を変えて悪知恵が働くから」とあるところ、「なんせしょっ中名前を変えてくるからなあ」に変更されています。

09:46 モー「でも友達ではいるよ」"でも"以降が大平さんによって消され、"友情には変わりない(よ)"と書き加えられています。

10:47 バート「くさっても親父は親父 少しは役に立つぜ」"少しは…"を大平さんが消し、"このチャンスを利用しなきゃ"と書き加えられています。
バートのちゃっかり感がより出るための変更ですかね。

12:12 手紙を書くホーマーのセリフ「家族へ 親父は負け犬だ」"父ちゃん"を大平さんが消し、"パパ"と書き加えられています。

13:10 石を運ぶホーマー、大平さんがホーマーの力んでる声をしっかり台本上に書き込まれています。
f:id:simpsons333:20220202225641p:plain
このカタカナの書き込みが、音声では本当に重いものを運んでいる雰囲気になるのは、大平さんのテクニックに尽きますね。
また、そのあとのセリフ「死ぬのも大変だ」"だ"最終的には省略されています。ここも、独特のリズム感で、大平さんによるホーマー節全開です。
そんな大平さん節、ホーマー節があるからこそ、悲惨なはずのセリフもどことなくポップに聞こえるのが、大平さんの本当にすごいところ。

14:19 ホーマー「一時停止をつけないと」"いと"を大平さんが消し、"きゃぁ"に変更されています。

14:42 ホーマー「父ちゃんはやるぞこの交差点に一時停止ができるその日まで!」"父ちゃん"が大平さんによって消され、"パパ"と書き加えられています。
先ほどの手紙のシーンとの統一感が出ています。

14:55 ウィガム「町の落書のほとんどは"エルバルト"という落書の名人が犯人です…」とあるところ、大平さんが"バルト""ル"を消し、"ー"に変更、また"の名人"も消して、"魔"に変更されています。
"エルバルト"はバートの落書き時のお馴染みのサインですが、この時点では視聴者からすると誰なんだか分からないため、音で聞いて分かりやすくするためか、そのまま"バート"を入れたものと推測します。

15:25 ホーマー「《ウフン》お集まりの皆さん 市会議員の皆さん 坊っちゃん嬢ちゃん 退職してヒマをもて余してるお年寄り…」とあるところ、大平さんが"退職して"を消し、"お年寄り"の後に"の皆さん"を書き加えられています。

15:42 ホーマー「D通りと12番通りに一時停止をつけるべきです」"D"を消し、"メイプル"と書き加えられています。
ここのシーン、原音に忠実な翻訳は台本にあるものなのですが、音で"D通り"と言っても分かりにくいと判断されたのか、オリジナル表現の"メイプル通り"に。

・15:49 市会議員①「認めます では休憩 コーヒーはロビーに売ってます」とあるところ、大平さんが"ロビー…"の横に"の欲しい人は"と書き加えられており、最終的には「コーヒーの欲しい方はロビーで」に変更されています。
ここ、原音では、「Coffee and maple logs in the lobby.」となっており、翻訳でカットされた、"maple logs(メイプルクッキー)"メイプル部分が、先に登場した通りの名前に流用されたものと思われます。

15:54 アイディアが簡単に可決され、喜ぶホーマーに対してのリサのセリフ「やったねパパ!」が大平さんによって消され、「すごいじゃない!」に変更されています。
ちょっと大人っぽい表現に変わっているような感じで、リサのちょっと大人びた雰囲気が良く出ているセリフ変更だと思います。

15:58 ホーマー「俺が一時停止だけで止まると思ったら大間違いだ!」"止まる""ま"を大平さんが消し、"め"に変更されています。

17:00 バートから「ヒーローじゃん!」と言われたホーマー、「隠すな隠すな…父ちゃんは今お前が言ったもんになってやる」とあるところ、大平さんによって"父ちゃん"が消され、"パパ"と書き加えられています。

17:08 デモの司会者のセリフとして「彼がもたらしたものは何か!?"スピードバンプ"」とあるところ、最終的には「彼のおかげでくぼみ有の標識が立った」に変更されています。
原音に忠実なのは台本にあるセリフですが、"スピードバンプ"という名称が画面欄で解説しないといけないほど日本人には馴染みが薄いものであることから、前に登場していたセリフを使用したオリジナルのものに。

17:59 ホーマーの正体を知った、本編初登場のバーンズ社長のセリフが「あーそれで敵にまわったのか」とあるところ、「そうかそういうことだったのか」に変更されています。
直接的な表現でなくなった代わりに、その言葉の中にも変更前のセリフの意味合いが感じられる、含みを持った雰囲気が。
大平さん曰く「弘ちゃん(バーンズ社長の北村弘一さん)は、本当のハマり役でしょ。作らなくてもそのままでバーンズ社長なんだもん」と絶賛されていたことからも分かるように、テクニックのある声優の方だからこそ成立する、あえての引き算のセリフ変更ですね。

18:05 ホーマーを連れてくるよう指示するバーンズに対してのスミサーズのセリフが「しかしミスターバーンズ」とあるところ、「しかしバーンズ社長」に変更されています。
原語版のスミサーズといえば、"ミスターバーンズ"と呼びかけるセリフがお馴染みですが、吹き替え版ではまれにミスターバーンズ呼びされるものの、基本的に"バーンズ社長"だったり"社長"で統一されることに。

18:38 ホーマー「待ってて下さい 責任者に会ってきます」"責任者…"以降を大平さんが消し、"すぐに戻って来ます"と書き加えられています。

19:40 ホーマー「俺もあんなパリッとしたシャツ着られたら…」を大平さんが消し、"あいつのシャツ パリッとしてるなァ"と書き加えられています。
ホーマーのプライドをそこまで下げずに、ただし自分とバーンズ社長との身分の違いはしっかりと感じているということが表現されているセリフになっていますね。

20:18 ホーマー「あー 引き続き話合に入ります」"引き続き…"以降を大平さんが消し、"もう一寸待ってて下さい"と書き入れられています。

20:59 ホーマー「ホーマー行きます!」を大平さんが消し、「ヨシ ホーマー行くぞ!」と書き加えられています。
その直後の21:02「支援者にさよならを言わせて下さい」"支援者"も同様に変更され、"みんな"に。

21:26 ホーマー「私はこれから皆さんの支持を離れて生きていきます」に、大平さんによる変更が入り、「私はもうこれからは皆さんのヒーローではありません」へ。
f:id:simpsons333:20220202230743p:plain
ここの変更は、英語的な表現から、より日本っぽい表現になっていますね。
そして、度々登場する"ヒーロー"という言葉が、本作の最終的な邦題にも使用されています。