シンプソンズ・ファンクラブ・ブログ

「ザ・シンプソンズ」を日本で広めるために日本語吹替版のエピソードガイド、グッズを買えるお店の紹介、大平透さん使用のアフレコ台本の研究、等々を掲載しています。

大平さんのシンプソンズ台本:シーズン2、第19話「リサのときめき"Lisa's Substitute"」

シーズン2、第19話「リサのときめき"Lisa's Substitute"」April 25, 1991

(日本初回放送:1993年2月6日、録音日:1992年12月10日)
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表紙の「1」は3本録りの1本目という大平さんのメモ。
なお、本エピソードはリサ:神代知衣さんのお気に入りエピソード。
リサとバーグストローム先生との別れのシーンでは思わず涙してしまったところ、名ディレクターの春日正伸氏がそのテイクをそのまま採用したという素敵な思い出があるそう!



<以下、ネタバレになります>


【画面】(台本上の通信欄)

・05:01 字幕「二、三分バートをお願いします」

・08:57 字幕「バートからマーティンへ パンツでもかぶってろ」

・13:49 字幕「バーグストローム

・15:58 字幕「王子敵を倒す」

・17:46 字幕「君はリサ・シンプソンだ」

・20:11 原音 シッポでツメをおさえられる

【音声】

・00:37 泣くフーバー先生を見たリサ
台本上は「又ふられちゃったんだね」とあるところ、最終的な音声では「又ふられちゃったんだになっています。
語尾が母音で終わる言葉にすることで、口あんぐりなちょっと呆れてる雰囲気がよく出ているものになっていると思います。

・01:55 代理教師バーグストローム、登場!
クレジットでは偽名になっていましたが、演じるのは俳優のダスティン・ホフマン
吹き替え版では、「ドラゴンボールZ」のフリーザ役や「アンパンマン」のばいきんまん役等々でお馴染み、その唯一無二な声は一度聴いたら忘れない、中尾隆聖さん!
今回は、上記のキャラクターたちとはまた違った、人間味に溢れる先生のお芝居が心を打ちます。

・03:04 バーグストローム先生の自己紹介

原語版ではあだ名の例として“Mr.Nerdstrom”(有名百貨店:Nordstromのもじり)“Mr.Booger-strom”(鼻くそストロームとなっている部分が、吹替え版では「ハンバーグ」嵐を呼ぶ男になっています。
原語版のセリフはどちらも英語の言葉遊びなので、吹き替え版でそのまま採用しても日本の視聴者には分からないと判断されたものと思われます。
このあたりのワードセンスが、翻訳家の徐さんならではですね!

・03:17 マーティン推しのクラバーペル先生
台本上は「先生に選挙権はないけどマーティンを強く推薦します」とある部分が、最終的な音声では「先生に選挙権はないけどマーティンを強く推_します」になっています。
クラバーペル先生の口の動きに合うよう、より細かく調整されています。

・03:21 マーティンの公約
台本上は「クラス委員になったら科学フィクション関係の本をジャンル別アルファベット順に充実させるよう学級に要請します」とあるところ、最終的な音声でははい!クラス委員になったら科学フィクション関係の本をジャンル別アルファベット順に充実させるよう学強く要請していくつもりですに。
また、その後の「有難う・・・さあみんなで空を見上げましょう」は、最終的な音声では「有難う・・・さあみんなで空を見上げようじゃないかになっています。
マーティンの演説風な口調がより強調させるセリフに!

・04:42 歌うパッパラパー

原語版では“Singing Dork”(歌うバカ)となっている部分が、吹き替え版では「歌うパッパラパー」に。
ここもさすが徐さんといったところ!

・06:55 恋の落ちたリサ
すっかり恋に落ちちゃったここからのリサ:神代さんのお芝居に注目!!

・07:38 先生の素敵なポイントをマージに話すリサ
台本上は「矯正したのかどうか知らないけど歯並びが凄くキレイ」とある部分が、最終的な音声では「矯正したのかどうか知らないけど歯並びが凄くキレイなのになっています。
語尾の「なの」がなくてもリサの口パクには合いそうですが、あえてセリフをギチギチに詰めることにより、リサの興奮を表すとともに、乙女な感じがより出ているように思います。

・07:53 マージも負けじとホーマーへの愛を語る
台本上は「リサ 聞くけれどもママだってパパのことそう思ってるのよわかってよ」とある部分が、最終的な音声では聞いてるわリサ でもママだってパパのことそう思ってるの_わかってよ」になっています。
リサに対する母としての教育的な発言でありながら、一人の女性として夫を心から愛している温かな気持ちも伝わってくる、一城さんの素敵なお芝居です。

・08:04 ホーマー、ここで第一声

リサメインのエピソードということもあり、物語の1/3経過時にやっと登場するホーマー。
お馴染みの相手をバカにしたような笑い声が実にホーマーらしくて最高です!

・08:24 休み時間中の課題を出すバーグストローム先生
台本上は「見つけるまで戻ってくるなよリサちょっといいかな」とある部分が、最終的な音声では「見つけるまで戻ってきちゃだめだよリサちょっといいかな」になっています。
先生のやさしさがより出る口調のアレンジですね。

・09:09 親子の対話をするホーマー

台本上は「バート・・・で勝てそうなのか?」とある部分が、最終的な音声では「バート・・・そんで勝てそうなのか?」に、そしてその後の「どうだ気持ちいい響きだろ」が、最終的な音声では「どうだ気持ちいい響きだろ(原語版を尊重し、「ユックリ」のメモ書き有)になっています。
大平さんの細かいところまで一切妥協しないセリフ作りがここでもさく裂しています!

・09:37 児童たちを味方につけるバート
食堂のテーブルの上に上がって演説するバートですが、原語版では児童たちの声援のみで無音になっているシーンなのですが、吹き替え版ではそこに「というわけでこういうことになるのであーる」というセリフが足されています。
台本上にも何も記載がないことから、現場で追加されたもののようです。
こういうところも、良き時代のテレビ吹き替えならでは!

・10:10 校庭のバートたちを見下ろしながら先生と話すリサ

台本上は「知性が不利ではなく長所になるところ?」とある部分が、最終的な音声では「知性がバカにされず尊敬されるところ?」になっています。
広い世代の視聴者に向けて吹き替え版が制作されていたこともあり、表現としてちょっと易しくした感じですかね。

・10:55 リサを博物館に連れて行くようマージから頼まれたホーマー

台本上は「明日はちょっと」とある部分が、大平さんによって手が加えられ「明日はちょっとそのに。
大平さんホーマーのこんな感じの動揺した雰囲気、いいんですよね~

・11:10 急にマージ側についたバートにつっこむホーマー
台本上は「うるさいバート」とあるところ、最終的な音声ではお馴染みの「うるへえバート」になっています。
ホーマーが嫌な奴に映らないよう、大平さんならではの心遣いですね。

・13:21 子供らしくマージを質問攻めにするリサ
台本上、「マニキュアしてもいい?」とある部分が最終的な音声では「マニキュア?」に、また、「ワインお出しする?」「ワイン出?」に、それぞれ変更されています。
現場でセリフのテンポをよりよくするために変更されたものと思われます。

・14:30 いよいよクラス委員長選は最終局面に!
クラバーペル先生のセリフが台本上は「候補者は何か有権者に言い残した事があるなら最終弁論をどうぞ」とあるところ、最終的な音声では「候補者は何か有権者に言い残した事があるなら最後にひとことどうぞ」に。
こちらも10:10と同様の気遣いと思われます。

・15:27 当選を見越して皆をもてなすバート
台本上は「二人は確実だ だろミルハウス?」とあるところ、最終的な音声では「二人は確実だ ミルハウス?」に。
ほんの少しの部分ですが、とにかく細部にまでこだわりぬかれているのが日本版シンプソンズの特徴です!

・16:03 駅で先生を見つけたリサ

冒頭にも書いたとおり、こちらのシーン、リサ:神代知衣さんが実際に感極まって泣いてしまい、涙声のまま収録されていたそうですが、シンプソンズ立ち上げ時のディレクターで吹き替えの歴史を作ってきた名ディレクター・春日正伸氏がそのお芝居をそのまま採用したそうです。
(16:08あたりにはリアルな神代さんの泣いている息遣いが入っていますが、生感を大切にされていた春日ディレクターはあえてそのまま使ったものと想像します)
そんなこともあり、神代さんはシンプソンズで特にお気に入りのお話として、本エピソードを挙げられていました。
このシーンを吹き替えで観たとき、元々のストーリーが素晴らしいのはもちろんですが、リサ:神代さんのお芝居がとにかく胸に来るなと思っていたのですが、上記の収録時のエピソードを知った際にはとても納得しました。
演者さんの魂が込められたお芝居と、本物の“演出家”が存在して、素晴らしい“日本語吹き替え”が出来上がるわけですね。

・16:46 先生が必要だと必死に訴えるリサ

台本は原語版に忠実に中流でいる事の哀しさだ(That's the problem with being middle class.)」なのですが、最終的な音声では「君はもう十分恵まれてる」になっています。
リサとバーグストローム先生の残り時間が少ない中での心のやり取りにフォーカスするためのセリフ変更ですね。
現場でこういうセリフが生まれてくるというのが、本当に素敵です。

・17:55 バートの落選を知るホーマー

台本上は「こぼれたミルクは元に戻らない」とある部分が、大平さんによって手が加えられ「こぼれたミルクは元に戻らない 仕ようがない(な)になっています。
さらに、こぼれたミルクの代案として、日本のことわざ「覆水盆に返らず」との大平さんのメモ書きもありますが、最終的には台本のアメリカのことわざのままにされたようです。
大平さんたちが常にベストのセリフを追求されているのが、最終的に採用されなかったこのようなセリフ案のメモからも伝わってきます。

・18:34 あなたはヒヒよ!!
先生とのお別れのシーンがあってからのこのシーン。
神代さんの魂がリサの叫びのシーンにもたっぷり詰まっています。

・19:09 ホーマーとリサの対話
本当に泣いてしまった神代さんを慰めるかのような大平さんのやさしいお芝居が胸に来ます。
大平さんと神代さん、このシーンは、本当のファミリーのようだったお2人にしか出せない雰囲気がギュッと詰まっています。必聴。

・20:55 ホーマーはバートもちゃんと気にかけてます

台本上は「委員は仕事が多いか?」とあるところ、大平さんによって手が加えられ「委員はボランティアなんだろ?」になっています。
ひとつ前のセリフに対応させる形で大平さんが考えられたようです。
このバランス感覚とそれを劇中に反映させるテクニック、本当に職人技です。