シンプソンズ・ファンクラブ・ブログ

「ザ・シンプソンズ」を日本で広めるために日本語吹替版のエピソードガイド、グッズを買えるお店の紹介、大平透さん使用のアフレコ台本の研究、等々を掲載しています。

大平さんのシンプソンズ台本:シーズン2、第11話「残された時間:One Fish, Two Fish, Blowfish, Blue Fish」

シーズン2、第11話「残された時間:One Fish, Two Fish, Blowfish, Blue Fish」January 24, 1991
(日本初回放送:1992年12月19日、録音日:1992年11月26日)

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<以下、ネタバレになります>


【画面】(台本上の通信欄)

・06:58 アナウンサー1 スミス先生スミス先生 ナースステーションまでおこしください

ホーマーのセリフの後ろで聞こえてくる院内放送の声。
ちなみに、シーズン2、第10話「インチキ弁護士にご用心:Bart Gets Hit by a Car」でも、スミス先生が呼び出されていました。多忙!

・11:25 聖者の行進 英語で歌う歌なのでそのままにしました 日本歌詞は見つからず

台本にも原音歌詞をカタカナ化したものが書かれていましたが、最終的には吹き替えではなく原音が流用されました。

・13:16 字幕「老人ホーム」「外の世界の事は話さないでください」

・20:40 《 》は重複部分 この部分旧約聖書中見つからなかったので原音どおり訳しました

《エレアザルはピネハスをもうけ》の部分


【音声】

・01:02 ミートローフの完成が待ち遠しいホーマー。
台本上は「《 》電子レンジより早いものはないのか」とあるところ、最終的な音声では「《ドー》電子レンジより早いものはないのになっています。
わずかな変更ですが、甘えた感じのホーマーが見事に表現されていますね。

・02:35 寿司屋・ハッピースモウを訪れたファミリー。

親方とトシローのセリフは台本上は「いらっしゃいませ!」でしたが、大平さんの台本の書き込みからも分かるように最終的な音声では「えーいらっしゃい」になっています。
威勢の良さが力いっぱいに表現されています。

・02:42 大声であいさつし返すホーマー
大平さんの台本にも「大声」とメモがありますが、本当に声のパワーがすごすぎます!

・02:52 ウエイターのアキラ、初登場!
原語版では俳優のジョージ・タケイが演じたキャラですが、吹き替え版ではルーやファンゾー等の声の伊藤栄次さんが演じられています。
後年、アキラが再登場した際には、吹き替え版の制作スタッフが誤って別の出演者の方にアキラ役をキャスティングしてしまったそうですが、自分のアテたキャラだと覚えておられた伊藤さんは現場でそれを指摘して、配役が変更されたこともあったそうです。
これは、長年担当している翻訳家、演出家、出演者、スタッフの何重にもなるチェックによって、よりよいクオリティの作品が出来上がっていることが分かる、好例だと思います。

・03:19 迷いながらもあれこれオーダーするホーマー

台本上は「まいいやこれと・・・後これとこれね」とあるところ、大平さんによって手が加えられ、「まいいやこれと・・・後これとこれたのむよに。
ホーマーの口パクに合わせるための微調整ですね。

・03:23 ハッピースモウの板場にて
親方の声は、長年にわたりディズニー作品のグーフィー役を務められていた島香裕さん
シンプソンズと同時期にWOWOWで放送されていた「パパはグーフィー」(以降も数多くの番組で)には、ホーマーの大平さんがピート役でご出演されていたこともあり、日本のディズニーファン的にもこのお2人の共演は胸アツかと思います。

・03:31 トシローの捌いた魚を見た親方
台本上は原語版に沿った「《 》ダメダメ 木こりだってこんなに荒っぽく切らねえぞ 恥を知れ恥を」となっているところ、最終的な音声では「《あ~》ダメダメなにやってんだ 素人だっておめぇこんなに荒っぽかぁ切らねえぞ まだまだ修行が足りんなに。
江戸っ子のすし職人感を出すために、西部劇等の吹き替えにもべらんめえ口調を取り入れられていた春日正伸ディレクターの影響が多く出ている演出ですね!(シーズン2からの演出はご子息の一伸氏)

・04:04 世界に誇る発明品のひとつであるカラオケマシンで熱唱する、日系プロデューサー:リチャード・サカイ氏をモデルにしたリッチー・サカイ

原語版では“I was born in the wagon of a traveling show.Mama used to dance for the money they's throw.Papa would do whatever he could.”であり、直訳すると「俺は旅一座のワゴンの中で生まれた。ママは投げ銭のために踊ってた。パパはできることはなんでもした。」なんですが、もちろんそのまま日本語化してしまうとどうしてもメロディに収まりきらないため、台本では「流れ 投げ銭めあてに踊ってたお袋 親父は食う為に何でもした~」になり、さらに最終的な音声では「流れ流れて旅がらす たどり着いたぜこの町に そこで出会ったいい女~」に。
メロディにもぴったりハマり、かつ歌詞の世界観はそのままにした、演歌+ムード歌謡的アレンジが良い!!

・04:38 カラオケで気持ちよく歌うバートとリサ

原語版では、1971年の映画「黒いジャガーShaftの主題歌で、アイザック・ヘイズ氏(海外アニメファン的にはサウスパークのシェフ)の楽曲「黒いジャガーのテーマ:Theme from Shaftを歌っているのですが、内容がだいぶ大人向けなため、吹き替え版では当時シンプソンズを放送していたWOWOWさんの気遣い(おそらく)で、オリジナルのマイルドな歌詞にアレンジされています。

台本:バート「一目で女をとろかすセックスマシーン?誰の事?」→リサ「ナンパ師」→バート「あったリィー 危ないとこには顔を出さない 要領いい奴そいつは誰?」→リサ「ナンパ師」→バート「ライトオン」
音声:バート「いつも仕事はドジばかり誰の事か分かるかな?」→リサ「うちのパパ」→バート「あったリィー いつもいつも酒浸り グータラそいつはだあれ?」→リサ「うちのパパ」→バート「ライトオン」

台本:バート「女泣かせのスケコマシ・・・」→リサ「言いすぎよ」→バート「ナンパ師の事だぜ」→リサ「なら分かるわ」→バート「難しい男でさ 奴を理解できるのはイケイケギャルだけェー」→リサ「イケズラ~」
音声:バート「女泣かせのスケコマシ・・・」→リサ「言いすぎよ」→バート「オヤジの事だぜ」→リサ「ならいいけどねえ」→バート「難しい男でさ 奴を理解できるのは息子のオレだけェー」→リサ「バートだけ~」

・06:17 トシローにフグをせかすホーマー
こちらにも大平さんの台本に「大声」のメモ書き。本当に大声で、パワーがすごい!

・06:24 ご機嫌で板場に戻る親方
口笛の桜は原音流用ではなく、わざわざ島香さんが吹き直されています。芸が細かい!!

・06:50 フグの毒を食べてしまったことを知るホーマー

台本上は「毒だ!?どうすりゃいい?どうすりゃいい?教えてくれ!」とあるところ、大平さんの書き込みからも分かるように、「毒だ!?どうすりゃいいんだオイどうすりゃいい?教えてくれ!オッオッ…とより動揺が感じられるようにアレンジされています。
大平さんが大切にされていた、“生きる言葉”をしゃべるホーマーです。

・07:29 余命宣告をされるホーマー

台本上は「あーマージ!俺は死ぬんだどうしよう!《 》」とあるところ、大平さんによって手が加えられ、「あーマージ!俺は死ぬんだどうしたらいいの!《トホホ…》」になっています。
動揺して言葉にならないような感情を、大平さんは「どうしよう」部分を「どうしたらいいの」と変えることで、より一層表現できるよう感情たっぷりに演じられています。

・07:56 飲み込みが早すぎるホーマー

台本上は「先生助けてください 例はいくらでもする」とあるところ、大平さんによって手が加えられ、「先生助けてください 例はいくらでもしますからになっています。
頼み込むイメージを強くすることで、ホーマーの必死な感情がより出てきますね。

・10:06 ホーマーによる人生で大切な三つのセリフ

シリーズを代表する名言といってもいい、こちらのセリフ。
原語版では、1.“Cover for me.”(直訳:カバーしてくれ)2.“Oh, good idea,boss.”(直訳:おお!良いお考えです、ボス)3.“It was like that when I got here.”(直訳:私が来た時にはそうでした)ですが、
翻訳家の徐さんの手にかかると、1.後はよろしく2.ボスは最高です3.最初からこうなってた、になるわけです。
3つのポイントを簡潔に伝えていくシーンなので、1つ1つを短いワードで表現しなくてはいけないわけですが、さすがの徐さんですから、短い中にもオリジナルの意図を完璧に、また日本語としても美しく表現されています!
そして、何より大平さんの3つのセリフに込められた、情景が浮かんでくるような声色も、とにかく最高です!!

・12:18 フランダースからの度重なるBBQのお誘いにキレるホーマー

台本上は「しつこいな何遍言や…」とあるところ、大平さんによって手が加えられ、「何遍言やいいんだ(よ)になっています。
また、その後の「いいとも」も台本上は1回だけですが、大平さんが繰り返すように変更されています。
ホーマーの口の動きからして少しセリフが足りないため、大平さんが適切な言葉を当てはめられたわけです。

・13:29 じいちゃんに会いに行くホーマー

台本上は「釣りやキャッチボールした事も、抱き合った事もない」とあるところ、大平さんによって手が加えられ、「釣りやキャッチボールをした事も、抱き合った事さえもなかったねになっています。
その後の、「父さんを愛している」も、語尾に「よ」を追加される等、とにかく普段と違う、最後だからと父親と仲良くしようとしている柔らかいホーマーが表現されています。
以降の父と子の二人きりのとにかく優しいシーンは、大平さんと滝口さん、レジェンド声優お2人の技が詰まっています!

・14:46 スピード違反で捕まるホーマー

台本上は「どーもすみませんスピード違反でしょ早く切符くださいよ」とあるところ、大平さんによって手が加えられ、「どーもすみませんスピード違反でしょいいから早く切符くださいよ」に。
以降のセリフも、台本「いいから切符くれって」音声「いいから切符くれっていってんだ」台本「…早くくれよ」音声「…早くくれよってんだよ」といった具合になっています。
初期シーズンのべらんめえ口調のホーマー、威勢が良くて味わい深いです!

・15:33 看守から外に電話することを許されたホーマー
台本上は「いや、マージはダメだ 最後の日にこんな騒ぎに巻き込みたくない」とあるところ、大平さんによって手が加えられ、語尾に「よ」が追加されています。
次のセリフとのタイミング等を計算、口の動きと調整された結果、1字分だけ追加されたようです。職人技!

・15:43 バーニーの留守録メッセージ
ベートーヴェンの運命に乗せての「留守です~」
アプーもそうですが、広瀬正志さんの担当キャラは歌うシーン多め。

16:21 床に落ちていたピザを食べるバーニー
原語版では無音のシーンに、広瀬さんがアドリブで「こりゃうめぇや」とモグモグ声を入れられています。

・16:25 ホーマーの帰りを待つマージ
マージの不安で切ない感情を、一城さんが完璧に表現されているシーンです。

・17:49 バートのイタズラ電話

今回はSeymore Butts = "see more butts"を、翻訳家の徐さんは「デッカ・ジーリさん」と表現!最高!!

・18:50 バーニーをせかすホーマー
台本上は「急げバーニー急げ」とあるところ、最終的な音声では語尾に「よ」が追加されています。

・21:24 涙を流すマージ
胸が締め付けられるような一城さんのお芝居に脱帽です!

・21:59 ホーマーに奇跡が起きた!

台本上は「今日から人生めいっぱい有意義に過ごすぞ!」とあるところ、大平さんによって手が加えられ、「今日から一秒たりともムダのない人生を送るぞ!」に。
この後のオチのシーンとのコントラストをつけるため、フリであるここのセリフをより強調しているわけですね。
ご自身も吹き替え作品を制作する立場を経験された大平さんの、演出家としての一面を垣間見られるシーンのひとつです。