シンプソンズ・ファンクラブ・ブログ

「ザ・シンプソンズ」を日本で広めるために日本語吹替版のエピソードガイド、グッズを買えるお店の紹介、大平透さん使用のアフレコ台本の研究、等々を掲載しています。

大平さんのシンプソンズ台本:シーズン2「髪と共に去りぬ:Simpson and Delilah」

シーズン2、第2話「髪と共に去りぬ:Simpson and Delilah」October 18, 1990(日本初回放送:1992年11月8日、録音日:1992年10月15日)

表紙の書き込みに「3」とありますが、これは本エピソードを1本目として合計3本の収録が同日に行われることを、大平さんがメモしたものと思われます。
あと、邦題が素敵!!シンプルかつ的確で最高です。

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<以下、ネタバレになります>


【画面】(台本上の通信欄)

02:30 ショッピングセンター
場面説明。

09:49 知られている曲なのでふきかえませんでした
 ビリー・プレストン「ユー・アー・ソー・ビューティフル(美し過ぎて)」

初期シーズンには、楽譜が起こせるスタッフの方WOWOW放送時にはアドバイザーとしてクレジットされていた、ジャズシンガーの井上真紀さん)がいらっしゃり、歌のシーンも基本的には日本語歌詞に翻訳され、吹き替えられていましたが、この部分に関しては原曲自体が日本でも知名度があるため、英語歌詞のまま吹き替えられました。
ただし、本編のラストで使用される際には、ちょっとアレンジが加えられています。詳細は音声欄の後半で。

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10:06 歌手 「ユーアー エブリシング アイニード ユーアーソービューティフル」
ホーマーたちのセリフと被ることから、歌手のセリフ(歌)は画面欄に記載されています。

11:35 字幕「事故件数減少する」


【音声】

01:21 「食ってる」との大平さんによる書き込みアリ。

01:55 奇跡の発毛剤ディモクシニールのCMに驚くホーマー。
台本上は、「《 》奇跡の発毛剤?ホントに奇跡が起きるのか!?」とあるところ、大平さんによって手が加えられ、《ワーッ》奇跡の発毛剤?ホントに奇跡が起きるの_!?」になっています。
語尾の"か"がカットされているのですが、こういう1字単位の微調整から、本当にこだわられていたのがよく分かります。

02:20 数々のヘアケア商品を前にするホーマーを慰めるマージ
台本上は、「坊主がセクシーだって女性もいるのよ」とあるところ、最終的な音声では、ツルツルがセクシーだって女性もいるのよ」になっています。

02:22 ディモクシニールに期待してマージに反論するホーマー。
台本上は、「奇跡の発毛剤だこういう気休めの安もんは違うんだ」とあるところ、大平さんによって手が加えられ、「奇跡の発毛剤だこういう気休めの安もんなんかとは違うんだに。
"なんか"というセリフが追加されただけで、お子ちゃま感全開のよりホーマーらしさ溢れるセリフになりますね!
また、セリフの上に「ユックリ」とのメモ書きも。

03:00 ディモクシニールの販売員(クラーク)にご立腹のホーマー。
台本上は、「千ドルだと…人に気ばっかもたせやがって」とあるところ、大平さんによって手が加えられ、「千ドルとはね…人に気ばっかもたせやがって トホホになっています。
情けなさ、悲しさがより伝わってきますし、この後の職場でのホーマーの話のフリとして際立つセリフになっているわけです。

03:11 職場でディモクシニール販売店での出来事を語るホーマー。
台本上は、「ふざけんな 気ばっかもたせんじゃねえってどなりつけてさっそうと出てってやったんだよ」とあるところ、大平さんによって手が加えられ、そいでよ、ふざけんな 気ばっかもたせんじゃねえってどなりつけてさっそうと出て来てやったんだになっています。
話し言葉としてより自然なセリフになっていますし、啖呵を切っている豪快な話し方は大平さんならではの迫力です。

03:27 ホーマーにぴしゃりな彼の幼馴染の方のカール。
この時点ではカールの名前が本編内で呼ばれていないため、香盤表のキャラ名は「社員1」でした。

03:28 タルタルソースが足りないホーマー。
台本上は、「《 》俺に髪がないからってバカにするか!そうか!」とあるところ、
大平さんによって手が加えられ、《クッ》俺に髪がないからってバカにするか!そうか(よ)!」になっています。
こちらにも1字単位のこだわりが!

03:38 レニーの悪魔の囁きに抵抗するホーマー。
台本上は、「でも千ドルだぞ 社長にばれたら大事になる」とあるところ、大平さんによって手が加えられ、「でも千ドルだぞ 社長にばれたら大事になっちゃうよになっています。
ホーマーの口パク調整のために、現場でセリフをちょっとだけ長くしたものと思われます。
それに、情けない感じもさらによく出ていますよね。

03:59 販売員に会社の保険でディモクシニールを買いたいと持ち掛けるホーマー。
台本上は、「あーディモクシニールに会社の保険を使いたいんだけど」とあるところ、大平さんによって手が加えられ、「あーディモクシニールの代金を会社の保険でやりたいんだけどどうに。

04:42 ディモクシニールを頭皮にたっぷりと浸透させ、床に就くホーマー。
台本上は、「どうか髪を与えたまえアーメン(原語版:Dear God, give a bald guy a break. Amen.直訳:神よ、ハゲ男をお助けください。アーメン。)」とあるところ、大平さんによって手が加えられ、神よ髪を与えたまえアーメン」に。
"神"と"髪"をかけた、日本語だからこそできる言葉遊びですが、まさか現場でのアドリブだったとは驚きです!!
あまりに印象的なセリフからか、DVD用の字幕(配信にも流用)も吹き替え音声のセリフがそっくりそのまま使用されています。

05:20 髪が生えた喜びで「素晴らしき哉、人生!」よろしくご近所を駆け回るホーマーに対するマッドフィールドさんのセリフ。
台本上は、「むさくるしい!髪を切りなさい ヒッピーが!」とあるところ、最終的な音声では、「むさくるしい!髪を切りなさい ヒッピーが!」になっています。
こちらも1字単位の変更ですが、バーンズ社長役の北村弘一さんの気難しいご老人演技が光りまくってます!
また、この際の喜びの雄たけびを上げる大平さんのホーマーボイスも力強くて最高です!

06:22 フサフサでご帰宅のホーマー。
「今帰ったよベイビー《ヒヒ…》ほらこっちおいで」の上に、大平さんによって「イヤラシク」のメモ書きがされています。
ちなみに、原語版では、「今帰ったよベイビー」「《ヒヒ…》ほらこっちおいで」の間にはマージの声は入っていないのですが、吹き替え版では現場でのアドリブとして、ホーマーを出迎えたマージの「まあ!」という惚れ惚れした声が追加されています。
キャラが映っていない(オフ)だからこそできる、良き時代のテレビ吹き替えのアレンジに痺れます。

07:41 秘書の面接をするホーマー。
台本上は、「履歴書は問題ないようだけど 何かこれといった特技はあるのか?」とあるところ、最終的な音声では、「履歴書は問題ないようだけど 何かこれといった特技はあるのか?」になっています。
こちらもホーマーの口パク調整かと思われます。また、たった1字の変更ですが、これだけでだいぶ優しい言葉に変わっていますよね。

07:54 マージと電話で話すホーマー。
ホーマーの「もしもし」はエフェクトがかけてあるため、ここだけ別録りされています。大平さんによる(別)のメモあり。

07:58 マージに秘書の面接の感想を言うホーマー。
台本上は、「あー秘書の応募者はみんな俺に色目使うんだよもう参った」とあるところ、最終的な音声では、「あー秘書の応募者はみんな俺に色目使うんだもう参っちゃったよに。
本エピソードには特に顕著に表れていますが、基本的にホーマーがマージや気心が知れてる相手などには、語尾をちょっと甘えた感じの"~しちゃった"にして話すという、大平さんの演出が光っています。

08:03 ゲストキャラのカールは、俳優のハーヴェイ・ファイアスタイン氏が演じており、彼が登場する作品の日本語吹き替えも数々の大御所の方々が担当されてきました。
本作でも、吹き替え草創期から活躍された田中信夫さんが担当されました。
コンバット!」のサンダース軍曹役や、大平さんも出演されていた「スパイ大作戦」のバーニー・コリアー役テレビ東京TVチャンピオン」のナレーション等々でもお馴染みの、品があり、威厳があるお声が、カールにぴったり!
(ちなみに、今なお続く戦隊ヒーローシリーズの元祖「ゴレンジャー」の初代ナレーターとしても有名。なお、2代目は大平さん。)

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08:17 幼馴染じゃない方のカールにずばり言われるホーマー。
カール「貴方はふさわしくない…」のセリフの下に、ホーマーのリアクションとして「ウワー」のメモ書きと、さらにカールの発言を受けたホーマーのセリフ「誰から聞いた?」の前に、「ハフ」と動揺を表す息遣いのメモ書きもされています。
こうやって、息遣いやリアクションの声等、台本に書かれていない部分も、大平さんがご自分で適切な声を考えられてアテていかれるわけです。

10:23 派遣歌手を手配してくれたカールに感謝のホーマー。
台本上に、「愛してるよカール いやマージ」とあるところ、大平さんによって"ア"が書き加えられ、「愛してるよカール  いやマージ」と、よりドジな感じに。

11:05 バーンズ社長に社食のフィッシュスティックについて恐る恐る提案するホーマー。
台本上に、「あーそれについてくるタルタルソースがこんなカップ一つですぐなくなるんです」とあるところ、大平さんによって手が加えられ、「あーそれについてくるタルタルソースがこんなカップ一つですぐなくなっちゃうんです あのそのになって、ドギマギ感が追加されています。

12:29 特別室の豪華さに驚くカール。
台本上に、「何とも とてもすばらしい」とあるところ、最終的な音声では口パク調整のためか、いやいや どうも 何ともはや とてもすばらしい」になっています。
凄すぎてポカーンな感じがよく出てますね。

12:49 社長にハンカチを差し出すホーマー。
大平さんの台本の書き込みから確認できるように、大平さんホーマーのバーンズ社長の呼び方の特徴は、「シャチョウ」ではなく「シャチョー」
以降のシーンや今後登場する、ホーマーの社長の呼び方にもぜひ注目して見てみてください。
「ー」ひとつに、様々な感情が乗せられている、まさに職人技です!

15:29 ホーマーをかばったカール。
「勇敢な兵隊が上官をかばって…」のセリフは、先にご紹介した田中信夫さんの主演作コンバット!を彷彿とするセリフで、春日ディレクターのまさに"分かってらっしゃるキャスティング"なのだとしみじみ…。

17:01 あざといバートに媚びを売られたホーマーのセリフ。
台本上は、「汚い手だ よし命は助けてやる…」とあるところ、大平さんによって手が加えられ、何が愛しているだ 汚い手だ よし命は助けてやる…」になっています。
「何が愛しているだ」の部分は、原語版では"D'oh!"なのですが、前のバート「愛してるよオヤジ(台本上は、パパ愛してるよ)」のセリフを受けたホーマーのセリフがないためか、大平さんがオリジナルで作られたものと思われます。それが入ることによって、一呼吸おいた次のセリフ「汚い手だ…」に自然につながりますね。
演出家の春日ディレクターとともに大平さんも自ら演出されて、シーンごとにキャラの感情に一番合う適切なセリフをはめ込まれていかれるスタイルに、脱帽です。

18:54 役立たずにはキスをしないカール。
キスの音、原語版はだいぶキスっぽい音なんですが、吹き替えでは原音を流用せず、ちょっと軽めのキス音に変えられています。細かい!

19:16からのスピーチをしているホーマーは別録り。
ここもマイクのエフェクトをかけるため。こちらも、大平さんによる(別)のメモあり。

20:45 ホーマーの気持ちが分かるバーンズ社長。
ある種、オチになるバーンズ社長のセリフは、原語版では"I, too, know the sting of male pattern baldness."(直訳:私も薄毛の辛さを知っている)なのですが、翻訳家の徐賀世子さんの手にかかると、「私もハゲのイバラの道は全部通ってきたのだ」に。
バーンズ社長の言葉を借りると、まさにエクセレント!素っ晴らしい!です。

21:02 寝室でのホーマーのつぶやき。
原語版では、ブツブツ言っているホーマーですが、吹き替え版ではセリフが当てはめられました。
オリジナルにはないセリフなので、台本上には候補が2つ、《夢だったのか》と《一時の夢》が挙げられ、最終的には《夢だったのか》が採用されています。
シーンにぴったりハマるセリフを入れ込むのも、やはりセンスの良さが必要不可欠ですね。

21:41 マージに寄り添われ、歌を贈られるホーマー。
NHKヤング101及び歌のお姉さん出身の一城さんによる「ユー・アー・ソー・ビューティフル」
歌詞の中の"Can't you see?"の部分、先に登場したように歌詞は日本語化しないと前にありましたが、ここはそのままだと伝わりにくいので、マージがホーマーに語り掛けるようにアレンジされ、台本上は「まだ分からない」になり、最終的な音声では、もっと優しく「まだ分からないになっています。
そして、その後に歌いだすホーマー。
ここの翻訳も、オリジナルをちょっとだけいじって、「オーレーは ビューティフル トゥーユー」なのも最高です!