シンプソンズ・ファンクラブ・ブログ

「ザ・シンプソンズ」を日本で広めるために日本語吹替版のエピソードガイド、グッズを買えるお店の紹介、大平透さん使用のアフレコ台本の研究、等々を掲載しています。

大平さんのシンプソンズ台本:シーズン2、第12話「パパとママの恋物語"The Way We Was"」

シーズン2、第12話「パパとママの恋物語"The Way We Was"」January 31, 1991
(日本初回放送:1992年12月20日、録音日:1992年11月26日)

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表紙の写真からも分かるように、台本の製本時には邦題が未定であったようで、後から鉛筆で書きこまれています。


<以下、ネタバレになります>


【画面】(台本上の通信欄)

・03:40 字幕「スプリングフィールド 1974」

・09:12 原音 盲目の子ども…
マージの弁論の内容に、吹き替え版では配慮が加えられていることが分かります。

・09:57 字幕「速度を落とすべき?」

・12:03 原音 いつか自分の子に話してやる時がくるかもしれないだろ

音声欄には少しアレンジされたセリフ「いつかテレビが壊れた時お前の子供にも話してやんなさい」とあり、最終的な音声でもこちらが採用されています。

・21:36 ここから台本なし

本国からの資料がなく、耳で聴いて訳を書かれたようです。


【音声】

・00:54 テレビを見るときは離れて見てね的な注意するホーマー

台本上は「お前たちそんなに近くで見ると眼が悪くなるぞ」とあるところ、大平さんによって手が加えられ、「お前たちそんなに近くで見ると眼が悪くなっちまうぞ」になっています。
ホーマーの口パクに合わせるために、大平さんがセリフを少し長く変更されたようです。

01:57~02:25あたりまで台本に抜けがあるため、「抜け」のメモ書き有。
台本の手書き時代ならではのものですね。

・02:46 なんでもいいからとにかくテレビが見たいホーマー

台本上は「一チャンネルでいいから映ってくれェー」とあるところ、大平さんによって手が加えられ、ナンか一ツでいいから映ってくれェー」になっています。
原語版では“one channel”と言っているため、そのまま「一チャンネル」でも問題なさそうですが、耳で聴くと特定のチャンネル(Ch.1)を指しているように聞こえてしまうと考えられたのか、あえてチャンネルというワードは使わずにセリフを変更されたようです。
演出家としての視点をお持ちの大平さんならではのホスピタリティ!

・03:52 スティーヴ・ミラー・バンド「サム・ピープル・コール・ミー・ザ・スペースカウボーイ」を熱唱するホーマー

台本には翻訳家の徐さんが歌詞をカタカナ表記にされたものが記載されており、大平さんがそれに沿って大熱唱!

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・04:49 授業時間にハンバーガーを食べに行きたいホーマー
台本上は「でも昼飯には早いぜ ハンバーガー食いに行こ」とあるところ、最終的な音声では、「でも昼飯には早いぜ ハンバーガー食いに行こうよになっています。
こちらもホーマーの口パクを合わせるための、大平さんが行われた微調整ですね。

・05:59 バーニーにプロムに誘われるエステル
彼女の声は、バートの堀さん!

・06:04 傷心のバーニーを慰めるホーマー

台本上は「心配すンなこれだけでかい学校だ一人位あぶれている女がいる」とあるところ、大平さんによって手が加えられ、「心配すンなこれだけでかい学校だ一人位あぶれている女がいるって…に。
口パクに合わせつつ、ホーマーらしい言葉遣いで表現されています!

・06:35 バーニーをブロックするホーマー

台本上は「俺のもんだ!」とあるところ、大平さんによって手が加えられ、「俺のもんだってばになっています。
大平さんならではの力強い勢いあふれるセリフで最高です!

・07:27 いつもと様子が違うホーマーに気づくエイブじいちゃん

原語版では“You haven't said "boo" all night, and usually I have to wrestle the bucket out of your greasy mitts.(直訳:(いつもは)一晩中ブーブー言ったり、(チキンの入った)バケットをお前の油まみれの手から引き離さないといけないのに)”となっているのですが、翻訳家の徐さんの手にかかると、「いつもモノ食ったり 屁こいたりうるさいのに何で黙ってる?」になっちゃうんだから、素敵すぎます!
そのエイブじいちゃん&ホーマーというキャラクターを完璧に理解されたセリフ作りに加え、エイブじいちゃん役の滝口順平さんの超絶技巧(ここでも「いつもモノ食ったり 屁こいたりうるさいのに何で黙ってんだよ?」とアレンジされています)が合わさり、まさにスーパー吹き替えに!

・07:39 皮肉っぽくホーマーの真似をするエイブじいちゃん

こちらでは、エイブじいちゃん:滝口さんの旧友でもあるホーマー:大平さんがエイブじいちゃんのセリフにも演出を加えられています。
台本上は「飲んだんじゃないよ ビールの缶拾いしてたんだ」とあるところ、最終的には「飲んだんじゃないよ ビールの空き缶拾ってたんだ~」になっています。
このお2人のハーモニーはまさに日本語吹き替えの歴史と言えます!!

・07:46 父と子で腹を割って話そう!
滝口さんも、エイブじいちゃんらしい言葉遣いで(口パクを合わせる意味も込みで)セリフをアレンジされています。
(台本)「それで・・・その惚れた女は美人か?」→(音声)「それで・・・その惚れた女は美人か?」、(台本)「あー高のぞみは不幸の元だ」→(音声)「あー高のぞみは不幸の元だ」、(台本)「車はポンコツ 仕事は将来性のないやつ 女は並を狙え」→(音声)「車はポンコツ 仕事は将来性のないやつ 女は並を狙えってんだよ~

・08:34 スクールカウンセラー:マッキンタイル先生の助言
台本上は「彼女が興味をもってることに君も興味をもって後は貢ぐのみ」とあるところ、口パクの都合上セリフが現場で追加されたようで、最後に「どう?分かったかな?」が加えられています。
また、メガネキャラつながりか、先生の声はスミサーズも演じられている、目黒光祐さん

・09:21 ホーマーの恋敵:アーティ登場!
今回、声を務められているのは、塩屋翼さん(原語版:ジョン・ロヴィッツ氏)
塩屋さんは子役時代の70年代に「科学忍者隊ガッチャマン」シリーズで大平さんと共演されており、日本アニメファン的には熱いキャスティングだったりもします。

・09:33 正論チームへの参加を“熱望”するホーマー

台本上は「よし入れないとはり倒すぞ!エヘンちょっとウォーミングアップ」とあるところ、大平さんによって手が加えられ、「よし入れないとはり倒すぞこの!エヘンちょっとウォーミングアップに。
口パク調整をしつつ、ホーマー感を演出される大平さん。

・09:44 正論チームに入るんだよねホーマー?

台本上は「88キロ 冗談でしょ! それで事故は減るだろうけど100万人が遅刻しちまうよ!」とあるところ、大平さんによって手が加えられ、「88キロ 冗談じゃないよ! _事故は減るだろうけどそいじゃ100万人が遅刻しちゃうじゃん!」になっています。
大平さんによる、ティーンエイジャー・ホーマーとしての言葉遣い、話しのテンポの最終仕上げです。

・10:49 どうにかしてマージを誘いたいホーマー

台本の「みんなに聞いてよ…たとえば体育のコーチとか 工作のセコフスキーとか バーニーとか」の部分、バーニーがオチになっており、そこで大平さんがバーニーの前に「ア、」と、バーニー部分に赤矢印でマークをされています。
こうしてテンポを調整されて、ホーマーらしいドジさを出されているわけですね!

・11:49 ホーマーの大作戦

台本上は「そりゃ偶然だなー 俺丁度フランス語で困ってたとこなんだ」とあるところ、大平さんによって手が加えられ、語尾に「よ」が追加されています。
1字単位の追加で、口パクをぴったりに仕上げられています。

・12:21 アクネケア完了のホーマー
台本上は「これでオッケー」とあるところ、最終的な音声では、「これでオッケーだあに。
口パクとのタイミングも完全にOKだあ!

・13:12 ♪ドューザ ハッスル!
台本上のエイブじいちゃんのセリフは「静かにしろ!」ですが、最終的な音声では「やかましい!」になっています。
滝口さんのセンスが光ります!

・13:25 アルエッタの出だし

本エピソードは大平さんホーマーの歌唱シーン多し!

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・14:21 プロムへのお誘い成功で大喜びのホーマー

台本上は「靴はロンドンブーツで決めて…」とあるところ、大平さんによって手が加えられ、「靴はロンドンブールでバシッと決めちゃって…」になっています。
こちらは、大喜びで早口になるシーンであることから、最後にホーマーらしさあふれるセリフを少し追加されたようです。

・14:59 おなじみの鈍感すぎるホーマー
マージの激怒が全然伝わっていないホーマーのセリフ「俺誰とプロムに行くと思う?」は、大平さんがセリフの上に「強め」とメモ書きされています。
原語版のVチェックをされたときに書き込まれたものと思われます。

・16:03 マージの母:ジャクリーン登場
声は、パティ(あと、スキナー母:アグネス!)の声も演じられている、鈴木れい子さん
マージとセルマの一城さん同様、ブービエ家には欠かせない声です!

・17:01 マージからなんで来たのか問われたホーマー

台本上は「君にプロムに行かないって言われると困るから学校さぼってでもおかげで卒業夏まで会うのさけて延期になっちゃったけど」とあるところ、大平さんによって手が加えられ、「プロムに行かないって言われると困るから君に逢わないように学校さぼったんだ おかげで卒業は、延期になっちゃったけどになっています。
台本のセリフは、台本屋さんが書き間違えているもとも思われますが、大平さんが日本語的におかしくない表現に完璧に修正されています。

・17:26 マージ父から問い詰められるホーマー

台本上は「ボクは補欠でした…すみません」とあるところ、最終的な音声では「ボクは補欠でした…すんまへんに。
また、「ボクは」「補欠」の間に「、」が打たれており、「補欠」部分を効果的に聞かせられるよう、大平さんの中で間を作られています。

・17:45 ホーマーこの後どうする?

台本上は「イヤだ!…ディナー券も二人分買ったんだ モトは取ってやる」とあるところ、最終的な音声では「イヤだ!…ディナー券も二人分買ったんだ モトは取ってやるになっています。
こちらも口パク調整のため。

・18:52 群衆の後ろからマージに声援を送るホーマー
遠くから叫んでいるこちらのシーンのセリフは、大平さんが別録りされたもの。

・19:19 カーペンターズ「Close to you」の歌詞を囁くアーティ
台本には印字ないため、現場でセリフの指示があった模様です。
この「Close to you」ザ・シンプソンズ MOVIE」の重要なシーンで2人の思い出の曲として使用されているので、当時世界中のオールドファンは歓喜とともに涙したものです。

・19:41 泣くホーマー

大平さんは台本に「クシュ」とメモ書きされています。

・20:38 悲しみに暮れるホーマー

台本上は「歩いて帰る」とあるところ、大平さんによって手が加えられ、「歩いて帰るに。
口パク調整のために追加された、「よ」というたった1字の中に、ホーマーの悲しさやこれまでの思いがたっぷり詰まっているのがよく分かります!

21:29からの若き日のホーマー&マージ2人きりのドライブシーンは、役を飛び越えて大平さんと一城さんお2人が持たれている暖かさが声に乗って、さらに良いシーンに仕上がっています!

・22:11 ホーマー(歌 歌詞ついていません 出だしはP.6(→03:52)のものと同じです)
エンディングは再びホーマーによる、スティーヴ・ミラー・バンド「サム・ピープル・コール・ミー・ザ・スペースカウボーイ」
台本上でも大平さんによって赤ペンで消されていることから分かるように、当該シーンは、WOWOWや後年再放送されることになるFOXチャンネルでの吹き替え版放送時には原語版のダン・カステラネタ氏の歌声が流用されており、長年吹き替えがされていませんでした。
本エピソードを収録した、ザ・シンプソンズシーズン2DVDコレクターズBOX」が発売される際(2002/10/4発売)、当時の販売元の20世紀FOXホームエンターテイメントが大平さんにオファーし、この歌のシーンが追録され、約10年の時を経て、吹き替え“完声版”となったわけなんです。

・今回のワンポイント:The Simpsons World Of Springfield Series16 Artie Ziff(Playmates社製 2004年)

本エピソードのアーティを立体化したもの。
附属品として、トロフィーに王冠、そしてプロムクイーン・マージとのツーショット写真。