シンプソンズ・ファンクラブ・ブログ

「ザ・シンプソンズ」を日本で広めるために日本語吹替版のエピソードガイド、グッズを買えるお店の紹介、大平透さん使用のアフレコ台本の研究、等々を掲載しています。

大平さんのシンプソンズ台本:シーズン2、第9話「マージの熱き闘い"Itchy & Scratchy & Marge"」

シーズン2、第9話「マージの熱き闘い"Itchy & Scratchy & Marge"」December 20, 1990
(日本初回放送:1992年12月12日、録音日:1992年11月19日)

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<以下、ネタバレになります>


【画面】(台本上の通信欄)

03:03 マギー ホーマーを殴る

状況説明

06:59 字幕「夫が殴られたのは暴力マンガの影響です」(マージのプレート)、「親を殺させないで」(マギーのプレート)、「反対 イッチー&スクラッチ―」(リサとバートのプレート)、「反対しないで」(バートのプレート(修正後))

07:37 原音は スプリングフィールディアンズ・フォー
耳で聞いて、彼らの住む町のことだとすぐ分かるように、シンプルな表現(スプリングフィールド・フォー…)に変更されたようです。

09:59 原音 アンビルを落とす

吹き替え版では「カナヅチ」になっている部分は、原語版では“anvil(金床…鋳鋼製の作業台)”
日本語で金床と言っても伝わりにくいため、そこに打ち付ける道具であるカナヅチになっているわけです。
カナヅチだとマージの夫であるホーマーがマギーにされたことと同じ目に遭うわけなので、セリフ上の違和感がないですね。

11:33 字幕「ロジャーメイヤース」、「クラスティ」 アウト可
ちょっと画面展開が早いからか、キャラが映っていないシーン(画面上からアウト)に字幕を出しても良いよ、という意味の「アウト可」です。

13:01 この部分変更しました 原音は 愛しすぎる女性 勝利が怖い セクソホリズム…
モンローの説明する症状「被害妄想に…」が吹き替え版でオリジナルのセリフに変えていますよ、という説明。
ちょっと専門的すぎるセリフなので、より分かりやすいものに置き換えられたわけですね。
ちなみに、「マザコンに…ヘアー丸出し女とか…」は台本には書かれていないので、現場でのアドリブ。

17:13 子供達外に出る
状況説明

20:25 字幕「アテネより衛星生中継」
状況説明


【音声】

01:29 ポークチョップを作っているマージに声をかけるホーマー
台本上は「なあマージ お前の作るポークチョップは世界一だ」とあるところ、大平さんによって手が加えられ、語尾に「ぜ」が追加されています。
(台本への書き込みでは「よ」ですが、収録の際に「ぜ」に変えられたようです。)
ホーマーの口パクにぴったり合わせるための変更ですね。

01:53 クラスティショー
大平さんの台本に「別」と書き込みがあるように、クラスティのパートは別録りされたことが分かります。
これは、シンプソン家のテレビから流れてくる音声を表現するために、ミキサーさんがクラスティの声にエフェクトをかけるためのもの。

02:00 テレビの前を通ってバートに注意されるホーマー。

台本上は「うるさい(よ)」ですが、何回もご紹介しているとおり、こちらでも大平さん独自の「うるヘェに変更されています。
ホーマーの口癖として定番化するものですね。

02:35 地下室でDIY中のホーマー

ハウトゥ本を開いてDIYをし、マギーに襲われるまでのホーマーの息遣いは、もちろん大平さんのアドリブ。
メモからも伝わる、ホーマーのドタバタ感!

03:46 子供たちが観ているイッチー&スクラッチ
今までイッチーとスクラッチ―の声は原音流用で吹き替えられていませんでしたが、本エピソードでは後半ネタのため、前半の叫び声からも吹き替えされています。
以降、イッチー役に紗ゆりさん(モードの兼役)クラッチー役に飛田展男さん(ミルハウスの兼役)が定番化します。

04:42 会社に休みの連絡を入れるホーマー

台本上は「今週いっぱい動けないんです」とあるところ、大平さんによって手が加えられ、語尾に「ってば」が追加されています。
こちらもホーマーの口パクと合わせるため、ホーマーらしい言い方で追加がされたわけです。

05:38 イッチー&スクラッチーでこっそり笑うホーマー

台本に「口おさえ」のメモがあります。
口をおさえてお上品に笑うホーマーに合わせ、大平さんも口を手で覆って収録されたものと思われます。

05:48 アニメに怒るマージに対して質問するホーマー
台本上は「あぁでもどうする?」とあるところ、大平さんによって手が加えられ_でもどうするんだ?」に。
こういった微調整からも大平さんのこだわりを感じます。

06:24 マージへの返事を考えるメイヤース
台本上は「お手紙拝見しました番組を見てくださって有難う」とあるところ、最終的な音声では「お手紙拝見しました番組を見てくださってどうも有難う」になっています。
口パクに合わせるためでしょうが、この追加によってより嫌味な感じが出ていてとても良いですね!

08:38 TVディナーの低クオリティを嘆くホーマー
台本上は「フルーツパイにマメが入ってる」ですが、最終的な音声では語尾に「よ」が追加されています。
大平さんの「よ」には、ホーマーの甘えている感じや情けない感じが詰まっていて、ほんの1字の追加なんですが、ここまでキャラクターの表情が豊かになるのかと驚きます。

08:53 明日の夕食のメニューをリクエストするホーマー
台本上は「それじゃ明日はお得意のポークチョップ作ってくれるか?」とあるところ、大平さんによって手が加えられ「それじゃ明日はお得意のポークチョップ作ってくれるかマージに。
ホーマーの口パクに合わせるため、こちらもまさにホーマーな感じの話し方、表現がされていますね。

09:19 収録現場にやってきた保護者たちにブーイングされたクラスティ

原語版では“~or Krusty will have to bring out his old friend Corporal Punishment again.(直訳:さもないとクラスティは旧友に体罰をさせないといけなくなる)”なんですが、翻訳家の徐さんの素敵なテクニックで、ちょっと意訳した「やめないとクラスティ こわい軍人体罰ゲームやっちゃうよ」に!
クラスティショーの世界観はそのままに、まさに良き時代のテレビ吹き替えらしいセリフに仕上がっていて最高ですね!

10:28 すっかりイッチー&スクラッチ―がお気に入りのホーマー(推しはイッチー)

台本上は「やっぱりおかしいよこれ こんなおかしいネズミがいるとは知らなかった」とあるところ、大平さんによって手が加えられ「やっぱりオモシロイよこれ こんなオモシロイネズミがいるとは知らなかった」になっています。
「おかしい」の場合、聞きようによってはホーマーもマージ同様アニメに対して疑問を抱いているように聞こえなくもないと考えられたのか、ホーマーが楽しんでいることが明確になるようにより直接的な表現の「オモシロイ」に変更されたものと思われます。
大平さんが全神経を集中させ、作品に向き合われていたことが伝わってきます。

10:57 誰かに似ているリスに爆笑のホーマー
台本上は「面白い事考えるねー」とあるところ、最終的な音声では「面白い事考えるー」に。
1字単位までこだわられています。

11:03 スマートラインから出演依頼が来たマージ
台本上は「ええあの夜やってるパネルディスカッションでしょ?」とあるところ、最終的な音声では「パネルディスカッション(原語版同様)」「討論番組」に変更されています。
WOWOWでは、番組を子供達にも楽しんでもらえるように制作されていたため、全年齢に分かりやすい表現に変えられることも多いのです。これもまた愛ですね。

13:11 隠れイッチー&スクラッチーファンのモンロー
台本上は「…密かな私の楽しみなんです」とあるところ、最終的な音声では「…私の密かな楽しみでしてになっています。
以前のモンローのセリフ同様、富田耕生さんも細部までこだわられています!

15:19 メイヤースからオチの相談をされたマージ
台本上は「二人で食べるの」とあるところ、最終的な音声では「二人で食べちゃうの」になっています。
語尾の言い回しのちょっとした差ですが、マージのかわいい感じがより出ていますね。

16:16 教育的イッチー&スクラッチ

台本上はクラッチー「レモネード?」→イッチー「飲むよ」が、最終的な音声ではクラッチー「レモネード?」→イッチー「好きだよになっています。
現場での変更と思われます。
この回限定の“イケボ”のスクラッチ―に注目!原語版では高音なのですが、吹き替え版のアレンジもシュールで不気味な感じがとても良く出ていますよね。

18:59 驚異的な成果を出したマージを褒めるホーマー

台本上は「あんたが大将」とあるところ、大平さんによって手が加えられアンタはエライ…になっています。
大平さんは、「ハクション大魔王」の「わしゃ、かなわんよ〜」(高勢実乗氏)よろしく、一世を風靡したコメディアンのギャグの引用をされることがあり、今回は小松政夫氏の代表的なギャグ「表彰状、あんたはエライ!」の引用。
シーズン5「バーンズのテディベア」では、ダチョウ倶楽部の「聞いてないよ~(聞いてねぇよ)」をホーマーが言っていたこともあったり…!
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19:00 ダビデ像が世界へ!
イタリア人を吹き替えたインチキイタリア語が実にインチキ臭くて、いい感じです!
(吹き替えは、クラスティの島田敏さん)

19:21 おねむのホーマー

大平さんによるイビキ、むにゃむにゃ感の表現がまさに名人芸!本当に眠そう!

22:03 子供たちがダビデ像を見てくれないだろうと淋しがるマージに声をかけるホーマー

台本上は、原語版に忠実に「授業で強制的に(They're forcing them!)」なんですが、大平さんによって手が加えられ(これ)見ないとアニメ見せないぞってに変更されています。
シンプソンズと同時期に収録されていた「笑ゥせぇるすまん」での喪黒福造によるオチの語りのセリフを、より良くしようと自ら手を加えられることも多かった大平さんだけあって、本作でもより分かりやすく、よりトンチが効いたセリフにアレンジされています!
まるではじめからこうであったかのような完成度に、さすがのセンスが光ります。大平さん達しか出来ない(怒られるから普通はやっちゃいけない)、まさに神業です!