シンプソンズ・ファンクラブ・ブログ

「ザ・シンプソンズ」を日本で広めるために日本語吹替版のエピソードガイド、グッズを買えるお店の紹介、大平透さん使用のアフレコ台本の研究、等々を掲載しています。

大平さんのシンプソンズ台本:シーズン2「ハロウィーン・スペシャル:Treehouse of Horror」

シーズン2、第3話「ハロウィーンスペシャル:Treehouse of Horror」October 25, 1990(日本初回放送:1992年11月15日、録音日:1992年10月29日)

初の「ハロウィーンスペシャル」。
原語版のスペシャルゲストは、ジェームズ・アール・ジョーンズ氏。吹き替え版では、小林清志さんが担当!

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<以下、ネタバレになります>


【画面】(台本上の通信欄)
11:12 丸型のパンに肉をのせたもの

バートのリクエスト料理、スラッピージョーの解説。
もしも、シンプソンズコラボカフェがあったら、このあたりはメニュー入りなるか?「セラクお手製スラッピージョー」とか。…随分とマニアックだな。笑

・13:45 字幕「人間の料理法」

・14:25 字幕「人間に喜ばれる料理法」

・14:33 字幕「人間を使った料理法」

・14:40 字幕「40人に喜ばれる料理法」


【音声】
・本作は、日本版シンプソンズ史上、一番吹き替えキャストの人数が少ない(ファミリーの4人+3人の合計7人)エピソード。

また、第二,三部のゲストとして、2022年7月にご逝去された小林清志さんが出演されています。
第二部では一見不気味だけど心優しい宇宙人、第三部では激シブナレーションと、
様々なお芝居のバリエーションが楽しめます。大ベテランの技をご堪能あれ。

00:27 冒頭のお断りをするマージ。
「大げさでなく本当にこわいんです」の後、原語版では「先におことわりしておきますけど…」部分に繋がるのですが、吹き替え版ではその間に「あ~やだわ」という吹き替えオリジナルのセリフが追加されています。
事務的なお断りの中に、お母さん感が出ているマージっぽいセリフが入るのは、良いコントラストになっていますね。

01:07 大人なのにお菓子を貰おうとするホーマー。

台本上は、「《うー》さあおどかすか ハロウィーン大好き《笑う》」とあるところ、大平さんによって《 》部分に手が加えられ、《へへ…》さあおどかすか ハロウィーン大好き《…》になり、最終的な音声では《うっしっしっ》さあおどかすか ハロウィーン大好き《…》になっています。
ここのハロウィーン大好き」の部分、よく覚えておいてくださいね。
また、その後の「ヘッヘッ」という笑い声は、何度もご紹介しているとおり、ホーマーの原語版声優のダン・カステラネタ氏の笑い声「へへ…」を大平さんが完コピ(+α)されており、とにかく痺れます!

01:33 言い合いをするバートとリサ。
台本上、バートのセリフは「怖くない(ね)」とあり、「ね」を入れるかどうかは現場に委ねられていたようですが、最終的にはテンポをとってか、より短い「ね」抜きのセリフが採用されています。


●第一部「悪夢の館」

01:58 引っ越し業者にサインを求められるホーマー。

台本上は、「ご苦労さんこれ取っといて」とチップを渡すセリフのみですが、セリフの長さからしてちょっと足りないと判断されたのか、その前に「ここにオレの名前ネ」が書き加えられ、最終的な音声ではその追加部分が「はいよオレの名前ネ」に。
ストーリー上違和感がないアドリブのセリフ追加は、熟練のテクニックです。

02:06 引っ越し業者から思わせぶりな言葉をかけられるホーマー。
台本上は、「あ?(原語版:Huh?)」と反応されているのですが、大平さんによって変更され、「何?」になっています。

03:51 キレるホーマー。

この家に住みたくないと言い出すマージに対してのホーマーのセリフは原語版では、"Don't be so stubborn.(直訳:そんなに意地を張るなよ)"なんですが、彼の表情的にもっとキレてる雰囲気になっているからか、より強めの表現にと考えられたようで、「分からないやつだなお前も!」になっています。
こういう絶妙なバランス感覚と、絵にピタッとハマるセリフを生み出すのが翻訳家の徐さんのセンスですね。

03:53 動揺しながらも家のことをカバーし続けるホーマー。

台本上は、こんな感じでメモがされています。最終的な音声には、もっとたくさんの声が。
台本には細かい息遣いやリアクションの声などはほとんど書かれておらず、出演者に委ねられていたので、こうやって大平さんご自身が考えられていたわけです。

05:08 同じく様子がおかしい子供たちを発見するホーマー。

ホーマーの呼びかけに対して、マージが「台所にいるわよホーマー」と返事をした後、ホーマーが後ろを歩く子供たちを発見し、原語版では特にそれに反応する声を出していないのものの、吹き替え版では大平さんによって「アラ」が台本に書き込まれ、最終的な音声では「ハッ?」となっています。

05:22 ホーマー、バート、リサ、マギー「ウヒャヒャヒャ」

05:34 声を掛けられ正気に戻るホーマー。
台本上は、「すまない いやー どうかしてた」とあるところ、大平さんによって語尾に「んだ」が追加されています。
ホーマーの口パクにぴったりに、話し言葉感もよりアップ。

06:01 秘密が明らかになり不動産業者にキレるホーマー。

大平さんによる台本への書き込みは、ご覧のとおり。
(冒頭の、「ジュ」という書き込みは原語版のダン・カステラネタ氏の声を大平さんが忠実に書き留められたものです)
江戸弁っぽく啖呵を切るホーマーは春日ディレクター時代に頻繁に登場していますが、威勢がよくもどこか小心者な感じがよく出ています。
また、オチの大事な部分「インディアンの墓」のセリフは視聴者にしっかり聞こえるように、大平さんによって「ゆっくり」とメモ書きがされています。
吹き替えという会話部分に文字情報がないコンテンツは、話のテンポ的に詰め込むところはギチギチに詰め込みますが、きちんと聞かせたいところはスピード調整したりセリフを少々削ったりと、様々な工夫がされています。
そして、続く「墓のことは…」のセリフの緩急の付け方は、さすが大平さんです!

06:32 激怒するマージ
一城さんの大絶叫!キャラ声キープしてこの声量ですよ。凄すぎです!!


●幕間

・08:21 バートたちのホラー話におびえるホーマー。

大平さんのメモ書き、なんだかあのせぇるすまんっぽい?
ちなみに、「笑ゥせぇるすまん」もシンプソンズと同時期に収録されていました。

08:31 バートの指のおもちゃをしゃぶるマギー。
台本上は、バートのセリフとして「なめるなバカ(原語版:Baby spit!)」とありますが、大平さんによって「バカ」が消され、その代わりに「よ」に書き換えられています。
さらに、堀さんによる最終的な音声では、「なめちゃダメ!」に。
当時のWOWOWでは土日の夕方に放送されていたこともあり、キッズたちの視聴も考慮し、オリジナルの雰囲気を尊重しつつも、ちょっときつめなセリフは極力マイルドに変更されていました。
(この辺りは、大平さんも「あっち(原語版)はもっときついからね、吹き替えでだいぶマイルドにしているから」とお話されていました。)
また、堀さんのやんちゃな男の子キャラならではの言葉遣いはやっぱり抜群ですね。


●第二部「飢えは災いなり」

09:14 BBQホーマー。

ホーマーの笑い声部分は、先ほどもご紹介したように、しっかりと「ヘヘヘ」と、息遣いの部分はこちらも大平さんのホーマーではお馴染みの「オウ」のメモ書き。
また、その後のセリフは、台本上には「完璧なハンバーガーを焼くには火の加減が大事なんだ」とあるところ、大平さんによって手が加えられ、「完璧なハンバーガーを焼くにはナント云っても火の加減が大事なんだになっています。
BBQキング(BBQ奉行)ホーマーの語ってる感じがより出ていていますよね。

09:36 UFOを発見するホーマー。

台本上は、ハンバーガー食わないと冷めるぞ 何だこりゃあ?」とあるところ、「冷めるぞ」「何だこりゃあ?」の間に、UFOを見つけた瞬間のリアクション、定番の「アラ」が書き加えられています。
この、ホーマーの「アラ」という反応の声は、大平さんが定番にしたホーマーの吹き替えオリジナルのセリフなんですが、短いながらもドジで可愛げのあるホーマーがよく出ていていますよね。
また、自然なリアクションの声は、テンポや間を含め、シンプルだけどとても難しいものだと思います。一歩間違えると、非常に寒いものになってしまいますからね。
そんなことから、"間"の重要性は、大平さんもよく語られていました。
また、最後の「グチュ…」という書き込みはハンバーガーを食べていることに対するメモ書きで、最終的な音声にもホーマーが頬張る声が録音されています。

09:50 UFOに吸い込まれるファミリー。
ホーマーのセリフとして、大平さんが台本に《ウワ…》と書き込まれていますが、さらに最終的な音声では、「どうすんの この」他、その後にもホーマーの声が追加されています。
吸い込まれはじめの最初の反応の声以外、原語版では無音なのですが、こちらも大平さんのアドリブで"音のスキマ"お埋めいたします…な仕上がりとなっています。
もちろん、基本的にはオリジナルにない声を勝手に入れるのはNGで、大平さんや滝口さんといったそのシーンをアドリブで確実に面白くできる方々しか許されないものでありました。

10:11 カングたちを見て震えるファミリー。
台本上の指示は、《震える》のみですが、大平さんによって「アダ…」と書き込みが。
「アラ」の変化球(同様バージョン?)で大平さんオリジナルのリアクション。
大平さんから、このような感じで濁音(笑い声等)を効果的に使われていることも伺ったことがあります。

10:15 初登場のカング。

声を担当されるのは、小林清志さん
シンプソンズに登場する宇宙人の声には以降もエフェクトがかけられていくことになるのですが、それにしたってこの声が、あの次元大介と同じ方がやられてるのはとても思えませんよね。

10:22 カングが言葉を話せることに驚くマージ。
原語版では"You speak English."なのですが、そのまま訳すと、日本語版には合わないため、あえて忠実に訳さず、「人間の言葉が話せるの?」に。
きめ細やかな気遣いに惚れ惚れです。

11:13 宇宙人たちからご馳走を振舞われるファミリー。

ご馳走に喜ぶホーマーのセリフですが、台本上は、「ポークチョップ」とのみあるところ、大平さんによって手が加えられ、マージ ポークチョップに。
次のマージのセリフに対応させるよう、マージと呼びかけるセリフが追加されたわけですね。

11:31 注文の多い客人・ホーマー
台本上は、「ポークチョップにつけるアップルソース持ってきてくれ 何見てるんだ?」になっているところ、最終的な音声では、「ポークチョップにつけるアップルソース持ってきてくれない 何見てんのよ?」になっています。
大平さんのホーマーは、シリーズを通して、オリジナルに忠実な命令口調や冷たく聞こえちゃうセリフに手を入れられ、そのまま日本語化してしまうとちょっと嫌な親父になってしまうところを、見事に愛すべきダメ親父に仕上げられています。

12:09 卓球ゲームをディスるホーマー。

台本上は、「こんなもん結婚する前によくやったよ」とあるところ、大平さんによって手が加えられ、「こんなもん結婚する前にマージとよくやったもんだになり、さらに最終的な音声では、「こんなもんマージと一緒になる前によくやったもんだになっています。

14:14 カングを問い詰めるホーマー。
台本上は、「ごまかすな本を見つけたんだ」とあるところ、大平さんによって語尾に「ぞ」が加えられ、ちょっと強めなセリフのイメージに。

15:58 ラスト、みんなでリサを責めるファミリー。

台本上は、ホーマーのセリフも、バートのセリフの「リサのせいだぞ(原語版:Way to go, Lise.)」と同じニュアンスの、「リサのおかげで(原語版:Yeah, thanks, Lisa.)」と記載されているのですが、リサがちょっとかわいそうなイメージになってしまうと判断されたからか、大平さんによって「リサのおかげで」「ポークチョップ食べたい」に変更されています。
宇宙船内のシーンで登場していたホーマーの大好物をここで登場させるという技は、オリジナルの雰囲気を壊さず、ホーマーのオトボケな感じもよく出ている、良き時代のテレビ吹き替えならではですね!


●第三部「カラス」

16:29 登場人物2人(大平さん演じるホーマーと堀さん演じるカラスのバート)と、語り(小林清志さん。原語版は、ダース・ベイダーの声でお馴染みのジェームズ・アール・ジョーンズ氏!)のみ!
ちなみに、ジェームズ・アール・ジョーンズダース・ベイダーをはじめ大平さんが吹き替えを担当されることが多かったのですが、1970年の映画「ボクサー」では小林清志さんが彼の吹き替えを担当されています。
後に、ピクサー映画モンスターズ・インクでは、逆に小林清志さんの持ち役であったジェームズ・コバーン演ずるウォーターヌース社長の声を大平さんが吹き替えられたことも。
大ベテランならではの技術で、いわゆるお約束の吹き替えキャスティング以外でもばっちりハマってしまうのが凄いところ。

16:41 いつもよりちょっとシリアスなホーマーを演じる大平さんの声色、お芝居に注目!また、それに絡む、ナレーションの小林清志さんのドッシリと落ち着いたトーンの語りにも!
ちなみに、大平さんが演じられていた実写版スーパーマンの再放送時に、大平さんの後任を務めたのは小林清志さんだったります。声のお仕事の草創期からご活躍されたレジェンドお2人の競演は贅沢すぎます。

17:01 椅子に腰かけ眠るホーマー。

大平さんホーマーのイビキの声、大平さんだけあってウーハーが効いているような力強い声!

17:12 ナレーションと、カラスのバートを際立たせるために、第三部のホーマーは控えめなキャラクターになっています。
大平さんは普段より制限された状況(エドガー・アラン・ポー「カラス」の登場人物としての設定を守らないといけないこともあり)で、シリアスながらもホーマーらしさを絶妙に表現されています。

驚く叫び声など、メモ書きからもよく分かりますね。

17:29 驚いて椅子に駆け上がるホーマー。
原語版では震えて歯が当たる音のカチカチというSEのみですが、吹き替え版では大平さんの声で震える声になっています。
17:46あたりは、オリジナルは無音ですが、ここにも震え声が追加されています。ほんの1秒のスキマですら無駄にはしません!

19:05 カラスのバートに問うホーマー。
台本上は、「夜の冥府の岸に住むお前の王侯の名は何と言う?」となっているところ、ここのセリフが全体を通して固めのイメージだからか、最後は少しでもホーマーらしくと大平さんが意識されてか、語尾が「何ンちゅうんだ?」に変更されています。

19:25 香炉が激突するホーマー
大平さんのパワフルな「アタ!!」が最高です。

20:11~ 合いの手を入れるナレーション。
原語版のジェームズ・アール・ジョーンズ氏は激渋ボイスのまま語り続けますが、吹き替え版では小林清志さんがシーンに合わせて、ちょっとギャグっぽく「カラスは答えた」とアテられています。必聴!

20:38 ホーマーをバカにするカラスのバート。
堀さんバートの「ざまーみろざまーみろ…」はエフェクトがかけられているため抜き録り。

20:45 カラスのバートにやられるホーマー。

台本には、ホーマーの叫び声については記載なし。つまり、こちらも大平さんのアドリブ!

21:44 全三部のホラー話を聞いてすっかり怯えるホーマー。
台本上は、《 》のみで指示はありませんが、大平さんによって「ハーハァハァ~」と書き込まれ、ホーマーがゾクゾクしてる感じが表現されています。

22:13 一番最後のホーマーの締めのセリフ。

台本上は、ハロウィーンって嫌い」になっているのですが、大平さんによってハロウィーン嫌い」に書き換えられています。
これ、冒頭のホーマーのセリフハロウィーン大好き」に対応させるために、「大」が追加されたということなんです。
フリを見逃さず、ラストでしっかり落とすセリフに完璧に仕上げられた大平さん。
細かいところも見逃さない、台本の読み込みがなせる業です。
(「ザ・シンプソンズ MOVIE」の序盤とラストの大平さんホーマーのセリフ及びそのセリフの言い方を彷彿とさせます。)

おまけ(今週のワンポイント)

The Simpsons Gentle Giant Bust-Ups Serie 1 - Homer with Raven Bart
2005年の商品。当時は、現在のブリスターコミックスさんが日本の代理店となって販売されていました。
ちなみに、こちらの商品のパッケージ、本国では各キャラクター(4種類)それぞれのイラストが施されていましたが、日本販売版では4キャラまとめて1種類のパッケージに収められました。