シンプソンズ・ファンクラブ・ブログ

「ザ・シンプソンズ」を日本で広めるために日本語吹替版のエピソードガイド、グッズを買えるお店の紹介、大平透さん使用のアフレコ台本の研究、等々を掲載しています。

大平さんのシンプソンズ台本:シーズン2、第10話「インチキ弁護士にご用心:Bart Gets Hit by a Car」

シーズン2、第10話「インチキ弁護士にご用心:Bart Gets Hit by a Car」January 10, 1991
(日本初回放送:1992年12月13日、録音日:1992年11月19日)

台本の表紙からも分かるように、当初は邦題の後ろに「!」が付いていました。
simpsons333.hatenablog.com


<以下、ネタバレになります>


【画面】(台本上の通信欄)

・05:04 アナウンサー スミス先生第二手術室までいらして下さい

ハーツの声の後ろで流れる、院内放送のセリフ。

・07:56 字幕「ドクター・リビエラ

・09:29 字幕「バーンズ 無能をクビに」「切れ者バーンズ」「バーンズ天才」



【音声】

・01:49 バートをはねたバーンズ
台本上は「5セントやって追い払え!」とあるところ、最終的な音声では「5セントでもやって追い払え!」に、その後の「これだから子供は嫌いなのだ」は、「これだから子供は嫌いなだ」に、それぞれ変更されています。
バーンズ役の北村弘一さんによる“バーンズらしさ”を最大限に表現された微調整ですね。

・02:07 天国へと向かうのエスカレーターの音声

台本にはありませんが、最終的な音声には、アナウンスの冒頭にアテンションプリーズ アテンションプリーズ 天国行きのお客様は」とのセリフが追加されています。
また、その後のアナウンスの「手すりから手を離さないように ツバをはいてはいけません」の2回目のアナウンス時には、日本独自のアレンジとして、空港風に他原語(ポルトガル語)でアナウンスされる演出が予定されていたことが台本から分かります。
(最終的には聞きやすさを考慮してか、そのまま日本語アナウンスになっています)

・02:16 バートのひいおじいちゃん
レニー役の朝戸鉄也さんが吹き替えられている、曾祖父のセリフも台本にしっかり書かれています。

・02:45 地獄の悪魔登場
“Do the Bartman”のMVにも登場する悪魔の声は、シーズン1ではミリタリーショップを経営するハーマンの声を演じられた千葉繁さん

・03:50 目を覚ましたバート

ホーマーの第一声(原語版では“He's awake!”)は、台本上では「起きたぞ!」とあるところ、大平さんによって手が加えられ「気がついたゾ」になっています。
ちょっと緊迫した雰囲気を出すために、“起きた”“気がついた”という非日常的なワードに差し替えられた大平さん、さすがのセンスです。

04:11 インチキ弁護士:ライオネル・ハーツ初登場!
原語版では俳優のフィル・ハートマン氏が演じたゲストキャラですが、吹き替え版ではシンプソンズ吹き替え版立ち上げ時のディレクター(つまり吹き替え版シンプソンズの完璧すぎるキャスティングをされた)春日正伸さんによってキャスティングされ、今となってはもはや本人以上に本人なジャッキー・チェン氏の声としてもお馴染みの、石丸博也さん
石丸さんは、当時マージの役作りで悩まれていた一城みゆ希さんに優しい声をかけられたという素敵すぎるエピソードもおありです。
nlab.itmedia.co.jp
(他にも石丸さんによるシンプソンズに関する素敵なエピソードがありますが、それはまたいつか…)

・05:16 バートの具合を先生に尋ねるマージ

台本上は原語に忠実な「世話を焼かれるのがイヤな位回復したんでしょうか?(原語版:“Is he well enough for me to mother him unbearably, Doctor?”)」になっていますが、最終的な音声では「うちに連れて帰って 面倒見てもよろしいでしょうか?」になっています。
次のセリフは、「まっ もうしばらく大事をとりましょう(原語版:“Mmm, better let him rest up a while first.”)なので、繋がり方も自然なこともありますし、そもそもマージのセリフの趣旨は変わっていませんので、より日本的な表現に現場で変更されたものと思われます。
台本のままでも問題ないように思えますが、とにかく細部までぬかりなく演出されていたことがよく伝わってきます。

・06:06 バーンズから100ドルの小切手を受け取ったホーマー

台本上は「たった100ドル?お気持ちは有難いですが正直申しまして病院の治療費だけでも…」とあるところ、大平さんによって手が加えられ、最後に「そのオ」とちょっとドギマギするホーマーの声が追加されています。
ホーマーの口パクと合わせるための追加と思われますが、こうした工夫でホーマーらしさがより出てきますね。

・07:37 ハーツから契約条件を提示されたホーマー

台本上は「でもどうでしょうねエー おたくと私じゃ大金に対する…」とあるところ、大平さんによって手が加えられ「でもどうでしょうねエー おたくと私じゃその~大金に対する…」になっています。
ここも、前項と同様に、口パクに合わせるためにホーマーらしさを出しつつの追加と思われます。

・08:07 ドクター・ニック・リビエラも初登場
このときは、バーニーやアプー役の広瀬正志さんが声を務められています。
後に、ミルハウス役の飛田展男さんの持ち役になります。

・08:29 ヤブ医者リビエラの診断結果に動揺するバート

情けなく泣き叫ぶホーマーは、原語版のダン・カステラネタ氏のお芝居をクリエーターの皆さんも絶賛されていますが、吹き替え版の大平さんのお芝居もカステラネタ氏に激似な上に、パワフルな情けなさで、とにかく笑えます。
声色と抑揚のつけかたでここまで面白くできるのは、やはり大平さんならではの職人技に尽きると思います。
なお、台本を見てみると、ここでも少しずつセリフの語尾をアレンジされていることが分かります。

・08:51 反論するマージに言い返すホーマー

台本上は「ヒバートなんて大した学校出てないじゃないかあんなヤブ医者」とあるところ、大平さんによって手が加えられ「ヒバートなんてたかがハーバード出てるだけじゃないかあんなヤブ医者ダメだよになっています。
原語版では実在する医大の名前を言っているんですが、大平さんアレンジだとホーマーのおバカさがより出ているものになりますね。

・09:01 爆弾発言をするハーツ

台本上は「この部屋で医者と呼べるのはこの先生だけです」とあるところ、最終的な音声では「この部屋で医者に一番近いのはこの先生だけです」になっています。よりヤバい、インチキ臭さが出ていて最高のセリフかと思います。
また、その後のリビエラのセリフも台本上は「やめてやめて そんな大げさな」なんですが、大平さんによって「やめてやめて そんなテレちゃうなに書き換えられています。
ここも、大平さんが全体のバランスを見て変更されたように思えます。こういうところからも、大平さんは出演者でありながら、演出家なのだということが分かりますね。

・10:08 鬼演出家ハーツ

石丸さんの声の切り替えが最高です!必聴!!

・10:38 さらに演出を続けるハーツ
目を後ろに向けるハーツとバート、原語版では無音なんですが、吹き替え版独自の演出として(台本にはないので現場で追加されたようです)、舌を出しながら「エーッ」と声を出しています。

・11:10 煮え切らないスナイダー判事

原語版では“Well, no, I guess I wouldn't.”というセリフの部分は、台本上は「それはまあ できなくはないですが…」になっており、大平さんの書き込みからもあるように繰り返しのセリフに現場でアレンジされたようで、最終的な音声では「それはまあ できなくはなくはなくはないです_…」に。どっちなんだ!という!

・11:36 ささやき親父&ささやき弁護士

台本上は「ハイハイ」とあるところ、大平さんによって手が加えられ「ハイハイ」になっています。
たった1字の追加ですが、2人がもどかしく必死な感じがよく出ていますよね。

・15:02 和解金を提示して席を外すバーンズ

原語版では“Smithers, let's go powder my nose.”となっているところを、翻訳家の徐さんは「スミサーズ 化粧直しだ」と、実にバーンズらしさ溢れるセリフで表現されています!

・16:01 例によって犬を放たれ、逃げ惑うホーマーとマージ

叫び声の書き込み。

・16:28 事実を話そうとするマージ

ハーツからそれを聞いたホーマーのセリフは、台本上は「あー頼むよ」なのですが、大平さんによって手が加えられ「あーダメダコリャになっています。
大平さんが、ほとんど諦めに近い表現にアレンジされたわけですね。

・17:33 ドーッ

・18:50 頭の中でマージを罵倒するホーマー

原語版では“snake woman”と言っている部分は、翻訳家の徐さんの手にかかると「メギツネ」になるわけです。

・19:55 モーの店に入ってきたマージを見たホーマー

台本から分かるように、セリフの間にちょっと間をあける部分には、大平さんがメモとして点(、)を入れられており、語尾には「ゾ」を追加されています。

20:04からのホーマーとマージの対話シーン、大平透さんと一城みゆ希さんの熱演は必聴!視聴者の感情を揺さぶるシーンに仕上がっています!

21:44 いい話はモーのセリフで締められがち
稲葉実さんの温かいモーのお芝居も良いですよね!
考えてみると、シーズン14「モーのマギーに捧げる子守歌」の締めのセリフもモーでしたね。
simpsons333.hatenablog.com


2023年3月末日をもって活動を引退された、ライオネル・ハーツ役の石丸博也さん。
素敵なお芝居は永遠に作品の中で輝き続けます。長きに渡り、我々視聴者に対して声のプレゼントをくださり、心から感謝申し上げます。