シンプソンズ・ファンクラブ・ブログ

「ザ・シンプソンズ」を日本で広めるために日本語吹替版のエピソードガイド、グッズを買えるお店の紹介、大平透さん使用のアフレコ台本の研究、等々を掲載しています。

大平さんのシンプソンズ台本:シーズン1「バートは天才?」

シーズン1「バートは天才?:Bart the Genius」January 14, 1990(日本初回放送:1992年9月20日、録音日:1992年9月3日)
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大平さんの台本リストの中で最古の台本です。
表紙のナンバリングとおり、2話目の録音となったエピソードです。
また、当初の邦題は「天才バート」で予定されていたことも分かります。


<以下、ネタバレになります>


【画面】(台本上の通信欄)
02:23 リサの音声欄のセリフに対応される形で、「原音 自我及び超自我の中になり精神の三大構成要素の一つ(広辞苑の説明をとりました)」とあります。

03:34 字幕「スキナー校長"俺はウインナーだ"」

06:10 「マーティンとバート アカンベーをしあう」

06:20 字幕「バート・シンプソン(アウト可)」
答案用紙の記名部分に対する字幕指示。
"アウト"というのは字幕上省略することであり、このシーンの場合固有名詞でそのままでも読めるため、場合によっては字幕自体をカットしても良いですよ、という意味です。

10:30 字幕「天才児 学習センター」

11:53 「メロンがイーサンの回文を黒板に書いていますがこれは無視します」
当然、英語の回文と日本の回文は一緒になるはずがなく、吹き替えは原語版と違う回文を言っており、黒板の内容とは異なるため、黒板の翻訳(字幕)は省略するというものです。

12:20 「コントロールハムスター 対照実験用ハムスター」
登場用語解説。

15:09 「原音 ピーナツ売り」
オペラハウスでピーナツ売りを探すバートですが、より子供らしく、という表現にということでしょうか、セリフではアイスクリーム売りを探していることに変えられています。

16:45 「学校 y=r3/3 = y=r3÷3」
黒板の内容。

17:17 字幕「作者 バート・シンプソン IQ 216」

19:33 「原音 ジェーン・グーダルがチンパンジーを研究したように」
音声では、音声が収まらないからか、「ジェーンがサルを研究したように」に省略されています。

21:58 「原音 キスをして抱きしめて許してやる」

22:04 「ハゲが出せなければ"タコ親父"にしてください」
音声の項目にもあるように、元々はバートがホーマーをはげ親父呼ばわりするシーンになる予定だったところ、結局タコ親父も使用されず、よりマイルドなものに。



【音声】
01:40 バート「遅いよおかん!」"よ おかん"が消され、「遅いんじゃない!」に修正されています。
DVD(配信にも流用されている)の日本語字幕でも、修正前の"おかん"が採用されていることから(原語版では、リサ同様に"Mom"呼び)、決めセリフ等を吹き替え版に準拠させるため、字幕翻訳者の方はアフレコ台本も資料の一つとして翻訳をしていたと推測されます。01:50 ホーマー「《・・》みんなうまいな!よくそうパッパカ思いつくよ」"よく"からが消され、代わりに"こんな手じゃどうにもなんないよ"と書き込み修正されています。

02:04 バート「つまんねえゲーム全然分がんね」"全然分がんね"が消され、"どっちでもいいじゃん"に描き込み修正されています。
第2話の段階で、シーズン4「ホーマーのおしおき」に登場していた、バートのインパクト大のセリフ「分がんね!」が発動されかけていたとは…!!
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02:06 ホーマー「お前の為にやってるンだぞ!」の前に、"コラ"と書き込みされています。
音声を聞いていただくとよく分かりますが、ここの"コラ"、文字では表現できない、大平さんの魂が込められた"コラ"になっていますので、要注目です!

02:16 ホーマー「辞書あるのか?」"の"が消されています。
1字単位での細かな修正です。

02:28 ホーマー「何言ってンだか」の後ろに"もう"と書き込まれています。
ホーマーの口の動きに合わせるための1ワード追加ということでしょうか。

02:35 バート「22点…プラス三倍得点プラス全アルファベットを使ったから50点」"全アルファベット…"以降に、"あがりで50点 俺って天才"と書き込みされ、こちらが採用されています。
原音に忠実なのは修正前のものですが、修正後のセリフはバートの性格がよく表現されていて、TV吹き替えならではの素敵な意訳だと思います。

02:47 バート「クウイジボは…あーでかくてマヌケで髪のないアメリカンゴリラ」"あー…"以降に"アメリカに生息する"が書き込まれ、最終的には「クウイジボは…アメリカに生息するでかくてマヌケなゴリラ」というセリフになっています。
語順を入れ替えるだけで、聞いていくうちにあぁ!これはホーマーのことか!とネタばらし的なセリフにこうも変化するものなのですね。

02:55 ホーマー「こいつは 親をおちょくって尻出せ尻!」"こいつは""って尻出せ尻!"がそれぞれ消され、"こんにゃろ!""りやがって!"と書き直されています。
ここ、原音では「誰がバカなサルだって?」的なニュアンスのところ、台本にあるセリフも最終的に採用されたセリフもどちらも意訳ではあるのですが、とても自然な言い争いのセリフになっていますね!

03:08 スキナー「君…グラウンドではガムは食べないすぐ捨てなさい」が、最終的には"グラウンド"の部分が"学校内"に変更されています。
日本ではグラウンド内外問わず校内ではガムは禁止でしょうから、ローカライズの対象国の文化に合わせるための変更と思われます。
また、スキナー校長の初登場シーンだけあって、学校の偉いさんであることを一発目に伝えるための意味もあるのかも。

03:52 マーティン「血に染まった手が証拠です!」が、「ホシはクロならぬ赤でした」というセリフに変更されています。
ここ、原音では言葉遊び"現行犯=red handed"になっており、吹き替え版でもオリジナルに忠実にマーティンにうまいことを言わせています。・04:07 マーティン「さっきの事で僕を逆恨みするような事はしないでほしい」"ほしい"が、ハカセ感が強まる"くれたまえ"に変更になっています。

04:14 バート「ウンコたれ」が、「パンツでもかぶってろ」に変更されています。
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ここ、バートの決めセリフ"Eat my shorts"誕生の瞬間なんですが、当時ここの翻訳をどうするのかを苦労された跡が伝わってきます。
始めは台本にあるように、原音を無視した「ウンコたれ」の予定であったところ、直訳の「パンツでも食らってろ」、さらにもう一ひねりし、"食う"を日本オリジナルの"かぶる"に変え、より小学生のいたずらっ子感を出していったのかぁ、と想像してみたり。

04:16 マーティン「何だって?」「何ですって?」に変更になっています。

04:20 クラバーペル「皆さんの将来の社会的地位を予測するものです 地位があれば(バートへ)」が、「皆さんの将来の収入や社会的地位を予測するものです 見込みがあれば(バートへ)」に変更されています。
クラバーペル先生の言葉の生々しさがアップしています。

04:24 マーティン「バート君は隣の人の答案をカンニングできないように窓に向かって座らせるんでしょ?」が、「バート君がカンニングの誘惑に駆られないように 窓に向かって座らせるんではなかったでしょうか?」に変更に。
マーティンの優等生感アップに加え、リアルなしゃべり言葉として非常に魅力的なセリフに!

04:33 クラバーペル「難しい問題は絵を想像するように リラックスしてー」が、「込み入った問題は思い描いてみるように リラックスしてー」に変更されています。

04:38 前のセリフ「リラックスしてー」に続けて、台本上ではクラバーペル「ではテストを始めます 始め!!」だけ書かれているところを、「がんばるんですよーでは では始め!!」に変更されています。
絵の口の動きを考慮してのセリフ変更かと思われますが、クラバーペル先生のクセある感じがよく出てます。

04:54 クラバーペル「しーっ 絵を思いうかべて」が、音読するバートをずばり注意する表現の「しーっ 頭の中で考えて」に変更になっています。

05:28 車掌「切符を見せて」→バート「切符は持ってない」が、車掌「きみきみ、切符は?」→バート「持ってないけどー」に変更になっています。
よりリアルな会話表現に。

05:34 車掌「密航者はここに入って」が、「無賃乗車を連れてきました」と、車掌がバートをマーティンにつきだすセリフに変更になっています。

・05:57 クラバーペル「みんなに迷惑かけるんじゃないの!」が、先生感強めの「みんなに迷惑かけるんじゃありません!」に変更になっています。

06:39 マージ「迷える小羊がやんちゃをしたらきつーく抱きしめてあげるのが一番なのよ」が、「迷える小羊だからこそやんちゃをしたらきつーく抱きしめてあげなくっちゃ」と、よりマージのやさしさが出ている表現に変更されています。

06:47 ホーマー「オイ!見てみろこれ "俺はウインナーだ"だってさ《 》似てる似てる」が、「オイ!見てみろこれ "俺はウインナーだ"だってさ《ヒッヒッヒッ》似てる…」と大平さんが台本に書き込んだ上、最後の"似てる"の部分が、最終的には"似てるなオイ"と録音されています。

07:10 スキナー校長から落書きの復旧費用を請求されそうになるシーンの、ホーマー「本当にろくな使われ方しませんな(きつめ)」を大平さんが書き込みで消し、「税金のむだづかいはホントゆるせません(よ)」と変更しています。

07:16 ホーマー「私共に払えっておっしゃるんじゃないでしょう?」→スキナー「それが一番でしょ」が、ホーマー「私共に払えっておっしゃるんじゃないでしょうネ?」→スキナー「それが筋かと」と、前のスキナーのセリフに対応するものに変更されています。

07:34 スキナー「これが明らかに子どものものと分かるミミズののたくったような字で…」が、「これが明らかに子どものものと分かるお粗末なサインでして…」に変更されています。
ここでは日本語のオリジナリティより、原音に近い表現をとるための修正のようです。

07:55 ホーマー「医者に言われなくたって問題児である事は分かってますよ」の"問題児"部分が大平さんによって消され、"頭がオカシイ"になり、さらにそれも消され、最終的に"手におえない"に直されています。

07:58 プライヤー「いえその反対です」が、「いえそんなことじゃなくって」に変更されています。
原音でもここではまだネタばらししていないので、後になって意味が分かるように、あえて"反対"という言葉を削ったのだと推測します。

08:18 IQの数値を逆さまで読んじゃうシーンでのホーマーのセリフ「912もあるのか!」の下に、大平さんが実際に"912"と書き込まれています。
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これ、恐らく実際に書いてみて、ひっくり返されたのだと思います。
こういうところからも、とにかく演じるキャラの気持ちになって本番に臨まれていたのがよく分かる書き込みです。

09:36 プライヤーのセリフの跡、原音だと無言で顔をしかめるホーマーですが、吹き替え版では、台本の余白部分に大平さんが"ホネ"と書き込まれ、実際に顔のしかめ方に合わせて「ホネ」とアテられています。このような音声の余白の使い方はまさに職人技!

09:50 ホーマーのセリフ部分に大平さんが"オフから"とメモ書きされています。
これ、オフ=画面上に姿が映っていない部分からセリフが始まっていることを表すためのものです。

10:05 ホーマー「フレークの中の何かの成分がバートを天才にしたんだ」"何かの部分"を大平さんが消し、"化学添加物"に変更しています。

10:18 リサ「知能テストの結果がどうだろうとあんなはバカよ」→バート「多分な」が、「知能テストの結果がどうだろうとバカはバカよ」→バート「かもな」に変更されています。

10:28 バートの提案に対するホーマーの返事の「合点」が、大平さんによって消され、「アイヨ」に変更されています。
以降、アイヨはホーマーがたまに発するセリフになります。

10:40 他の児童がネクタイをしていることに不安になるバートに対してのホーマーのセリフ「心配するな父ちゃんが貸してやる…」の前に、大平さんのメモで「やさしく」と書き込まれています。

10:45 ホーマー「こうやってホックで引っかけるこれでばっちり決まりだ」"ホックで引っかける"が大平さんによって消され、"パチンとくっつける"に変更されています。

・11:01 ホーマー「一生懸命やっていつか一角の人物になって先祖が果たせなかった夢を果たしてくれ 他人に負けるんじゃねえぞ」が大平さんによって消され、「いいかバート、万年ビリからいきなりトップになってご先祖様をおどろかせてやるんだ 真中じゃダメだからな」に変更されています。

・11:41 メロン「先週"無学"をテーマの映画を撮った時小道具に使ったやつね」が、「先週"無学"をテーマにした映画を撮った時の小道具ね」に、「"ワーク・エリア"を共有する仲間を紹介するわ」が、「"学習エリア"を共有する仲間を紹介するわ」に、それぞれ変更されています。

・13:19 メロンから何かパラドックスを挙げるように言われ、悩んだバートが発する「やっても非難されるし やらなくても非難される(you're damned if you do, and you're damned if you don't.…あちら立てればこちらが立たず的な)」が、「猿も木から落ちる」に変更されています。
ここは思いっきり日本語オリジナル表現に。知的な他の児童との落差をより大きくする表現にするためかなぁと推測。

13:43からのバートの「ああ別にいいけど」が、「ああいいよどうぞ」に変更されています。

14:04 天才児たちの天才テストの結果を話し合う児童。
イーサン「凡庸な天才ってとこじゃない?」が、「天才と呼ぶには程遠いな」に。続く、カルビン「ああ大した頭はしてないよ絶対」が、「気の毒だがそんなとこだな」に変更されています。

14:42 マージ「成長を助ける為にくれてやる臭いもの何て言ったっけ?」が、「子供の心を豊かにしてくれる教育ってなんて言ったっけ?」に変更に。
これ、続くリサのセリフ「こやし」が、「情操教育」に変更になったことに伴うもの。
日本版アレンジより、オリジナルに近い方(リサのセリフ:Nurturing…育成)をとったということですね。

14:48 上の"こやし"のくだりが変更になったことに伴い、マージ「そう脳ミソにこやしをやらなかったって だからオペラの…」が、「そうそれよ それをやらなかったでしょ だからオペラの…」に変更されています。

15:02 ホーマー「何で俺までデブの合唱きかなきゃならねえんだ?」"デブの合唱き"が大平さんによって消され、"オペラにい"に変更されています。
ここ、原音では、「But I'm not a genius. Why should I suffer?(俺は天才じゃないのに。なんで苦しまなきゃなんねえんだ?)」となっており、原音に近い表現に変更されたことが分かります。

15:23 バートの即興替え歌闘牛士さんタンをはかないで タンをはくならータンつぼに吐いてー」が、よりリズムにハマるように闘牛士さんタンはかないで タンをはくなーらタンつぼに入れてー」に調整されています。

16:34 ホーマー「つまンねーなー いつ終わるんだ」の、"つまンねーなー""いつ終わるんだ"の間に、"このオペラ"が大平さんによって書き加えられています。
口の動きとセリフ量を調整するための追加かと思われます。

17:08 問題を解けないバートに対して、メロン「さあ急いで考えてほら」が、先に出てくる数式にかけた「そういうことでアール」に変更されています。
原音では皮肉的な表現である「har dee har har」が使われているので、「そういうことでアール」にすることで茶化し感をアップさせた感じでしょうか。

17:46 ホーマー「まあ今日は勘弁してもらうか」が、「俺は今日は勘弁してもらうかな」に変更されています。

17:56 バート「よし親父来い来い!本塁をぶったぎって嵐を巻きおこせェ!」が、「よし来い親父!バッターも真っ青だそれ来い!」に変更されています。

19:50 バート「バート・シンプソンの…スパイ計画書」が、「バート・シンプソンの…マル秘計画書」に変更されています。

21:36 ホーマー「お前ってやつあこの…」
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ホーマーの決めセリフ"Why you little!"、本編での初登場の記念すべきシーン。そして、この名訳です!!

21:52 ホーマー「男ならいさぎよく出て来て尻を出せ!(ブレス無視)」"て来て尻を出せ!"が大平さんによって消され、"い、おしおきだ"に変更されています。
原音では「March your butt right out here, now!(今すぐケツむいて出てこい!)」で、比較的原音に忠実な訳であることが分かりますが、吹き替え版ではマイルドに。
ちなみに、"ブレス無視"とは、本来は会話の中で文節等で適度に息継ぎをしながら話しをするところを、あえてそれを無視し、畳みかけるようにしてください、という指示です。

21:58 バートを部屋から出させようと、戦法を変えた瞬間のホーマーのセリフ「父ちゃんは別に怒ってるンじゃない…」の上に、"ヤサシク"との大平さんのメモが。

22:04 ホーマーの戦法に引っかかるまいと、反抗するバート「ウソこけ親父はげ親父 そんな手にのるかよ」が、「いくらバカな俺だって そんな手にのるかよ」に変更されています。

22:08 「父ちゃんをハゲだとこのォ 親に向かって何て口きくんだこのガキは 尻出せ尻!」が、大平さんの手で書き直しされ、「親に向かって何て口きくんだーこんどと云う今度は許さない」に変更されています。
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前のシーンにもあったように、尻を出せ!は当初ホーマーの日本版の口癖にしようとしていた雰囲気があった感じがしますが、ちょっとバイオレンスだからか、すべてカットになったようです。

まとめ:音声欄を見ていただくと、台本と最終的な音声で結構な違いがあることがお分かりかと思います。
翻訳家の徐さんによる、英語ならではの表現をナチュラルに、かつ適度な毒を残した巧みな訳に加え、現場の演出で春日ディレクターや、この台本を使われていた大平さんがオリジナルを尊重しつつアレンジ等をすることで、最強の日本語版に仕上がっているのだと、非常に納得がいくものでした。つまり、どの役割の方も、素晴らしい吹き替え作品を作るうえで、欠かせない存在であるということですね。
また、WOWOWは"シンプソンズは過激なアニメ"であると宣伝していた一方、日本初の有料衛星放送局という立場もあってか、初期の吹き替え版での言葉遣いは非常に配慮されており、身体的特徴を指す"デブ"や"ハゲ"と言った表現は基本的にはNGで、台本にはあるものの最終的にはマイルドな表現に変更されていることが多く見受けられます。
日本でシンプソンズを初めて紹介するにあたっての、WOWOWによる攻めるところと攻めすぎないところの絶妙なバランス感覚も、素晴らしいものだったと改めて感じます。