シンプソンズ・ファンクラブ・ブログ

「ザ・シンプソンズ」を日本で広めるために日本語吹替版のエピソードガイド、グッズを買えるお店の紹介、大平透さん使用のアフレコ台本の研究、等々を掲載しています。

大平さんのシンプソンズ台本:シーズン1「ホーマーの大決心」

シーズン1「ホーマーの大決心:There's No Disgrace Like Home」January 21, 1990(日本初回放送:1992年9月27日、録音日:1992年9月10日)
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表紙には邦題の脇に(仮)の記載がありますが、今回の邦題はそのまま採用されています。


<以下、ネタバレになります>


【画面】(台本上の通信欄)

01:41 ホロっと

01:43 嬉しそうに

02:30 字幕「侵入者は撃たれる」

04:26 ベビールーム
場面が展開した後の状況説明。

11:24 花をふんじゃったホーマーのセリフの上に、(いたずらっぽく)と指示があります。

11:39 モーの店で流れているボクシング中継の実況アナのセリフも、全文ズラッと画面欄に記載があります。
アナウンサー②「さあーフォアマン パンチがでました これはきいた さすがは元世界チャンピオン 大変なパンチです マイク・アリも頑張って反撃に出ますが足がふらついてます そこを一気にせめるモハメド・フォアマン この調子でいけばフォアマンの勝利は間違いありません おっとマイク・アリの額から血が出ています 血が目に流れこんでいますマイク・アリ。まさに血に飢えた猿といった風情のモハメッド・フォアマン 容赦なく相手のスキをつきます リングは熱狂と興奮のうずに包まれています 観客も総立ちです さあフォアマン波にのってきました マイク・アリまるで蛇ににらまれたカエルです 手も足も出ません ただただフォアマンのパンチをうけるだけです あー又出ましたフォアマンの必殺パンチ ようやく反撃に出るマイク・アリ 両者もつれあうような殴りあい マイク・アリ大分疲れています 足をひきずるようなフットワーク これではパンチもききません ここでもう一発フォアマンのパンチ 気力だけで立っているマイク・アリ やはり前評判通りフォアマンは強かった 酒にも強く女にも強く試合にも強いフォアマンまさに現代のヒーロー ヒーローなき時代のヒーローです そこらの俳優がボクシングやるのとはワケが違う 迫力が違う ボクシングが違います さあフォアマン最後の反撃! マイク・アリにこれでもかとパンチをぶつけます あーマイク・アリ 最後の力をふりしぼって反撃パンチ! フォアマン倒れました 何とマイク・アリ逆転優勝です!」
ちなみに、ここに登場しているボクサーの名前は、モハメド・アリマイク・タイソンジョージ・フォアマンを混ぜたもの。

13:33 HUGS→4444(ヨシヨシ)
ハグをヨシヨシと訳し、数字の4にあてるセンス、さすがです!

15:31 字幕「モンローのファミリーセラピーセンター」

19:14 ホーマー《 》バート《 》リサ《 》 マージ《 》バート《 》リサ《 》
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(↑これが、最終的に絶叫シーンに仕上がるんだから驚きです)
それまでは音声欄に書かれていたファミリーのセリフ(叫び声部分なので、《 》のみで声の出し方は声優さんたちに委ねられていたようです)が、
モンローのセリフが始まることから、画面欄に移動してきています。

19:24 上と同様の趣旨で、「全員《叫ぶ》」の表示。そこに、大平さんの書き込みで「ウーッ」
文字では「ウーッ」ですが、音声をぜひ聞いてみてください。文字じゃ表現しきれない、叫び声の表現ですから!

19:50 ホーマー《 》マージ《 》バート《 》
上と同様に。叫びのテンションは最高潮に!


【音声】

01:41 どっちがパパをより愛しているか対決に対してのホーマーのセリフ「何だそうか《 》好きなだけやんなさい」《 》内に大平さんが"アー"と書き込まれ、さらにその後が"好きなだけおやんなさい"に変更されています。

01:56 「《 》マシュマロか《 》」《 》内に、"ウーン""ウウ ゲボッ"と、大平さんがご自分で考えられた声のアクションを書き込まれています。

02:11 ホーマー「バーンズさんはお前の作ったゼリーが大好きだからな」の、"バーンズ"が大平さんによって消され、"社長"と書き加えられています。
以降、吹き替え版においては、原則としてホーマーはバーンズのことを"社長"もしくは"バーンズ社長"、それ以外のファミリーは"バーンズさん"と、それぞれ呼ぶことが固定化されてきます。
さらに、"大好きだからな"の後ろに、"ア"も書き加えられ、音声もマージに甘えたホーマーの雰囲気が出まくっているセリフになっています。

02:41 ホーマーから、社長に対して愛を示すよう求められたリサのセリフ「難しい選択」「難しいわ」に変更されています。

03:01 スミサーズ「綱引きまでに追放します」が、「綱引きまでには追っ払います」に変更されています。
ちょっと俗っぽいセリフになっていて、より生々しさがアップ。

03:47 バーンズに目をつけられたホーマー「いえいえ《笑う》」"いえ"が1回に、また《笑う》が大平さんによって消され、その横に"ヘヘヘ…"と笑い声の種類の書き込みが。

04:01 リサ「バート 噴水まで競争 負けた方はバカ!」の、"噴水まで競争"が"競争しよう"に変更されています。
ここ、原語版では"Hey,Bart,last one in the fountain's a rotten egg!"でして、"Last one in is a rotten egg"は、直訳すると「ビリは腐った卵」ということで、アメリカで子供たちが仲間を挑発するときに使う言葉なんですが、そこを「負けた方はバカ!」と直球かつ子供っぽい翻訳にしているところが、翻訳家の徐さんのセンスですね。
ちなみに、放送開始当初のシンプソンズ同様に徐賀世子さん翻訳、春日正伸さん演出ホーム・アローン」(フジテレビ版吹き替え)で、主人公のケビンの姉:リニー(声:神代知衣さん!)が、ケビンのことをバカ呼ばわりしているシーンを彷彿とさせて、両方知っているファンにはちょっとうれしいシーンかも?

04:42 頭に石をぶつけられたホーマー、原語版では"Oh!"で、台本上は《 》のみでセリフ指定はないところを、大平さんが"イテ"と書き込まれています。

04:58 親子カンガルー競争のルールの呑み込みが早いバート、台本上は「ああ…バーンズを勝たせてやれば良いんだろ」であったところ、"バーンズ""社長"に変更されています。

05:13 自慢大好き赤毛の奥様(妻①)のセリフが、台本上は「成績だってオールAでしょ 私の出番があればこそ」とあるところ、"私の出番…"の部分が"欲張りすぎよね"に変更されています。
原語版では"What's a mother to do?"、つまり「母の顔が見てみたいわ」であることから、非常にいい感じでイヤミったらしい表現に意訳されたわけですね。

・ほろ酔いマージの歌の歌詞は台本と最終的な音声では全く異なります。
台本「木影に坐っていい気持ち(ヘイブラザー・プアーザワイン)お手製のドリンクをどうぞ(ヘイブラザー・プアーザワイン)お目あての人が来た二人行くけど皆さん許してね(ヘイブラザー・プアーザワイン)」
音声「どんどん飲もうよ(ワインは美味しいよ)お味は最高だ(ワインは美味しいよ)一緒に飲めば気分は最高(ワインは美味しいよ)」
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このシーンの曲は、ディーン・マーティン「Hey, Brother, Pour the Wine」で、台本にあるのはオリジナルに忠実な翻訳なのですが、吹き替えにする際にちょっと字余りになってしまうからか、現場でバチッとはまる歌詞に変更されています。
NHKヤング101」出身で、「おかあさんといっしょ」の歌のおねえさん経験もある一城みゆ希さんの美声も相まって、名吹き替えソングシーンに!


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06:30 マージ「待ってェ このパンチおいしいわよォ」の、"このパンチおいしいわよォ""このパンチ美味しいのォ~"に変更され、よりベロベロ感が出てます。

06:35 ホーマー「しめの乾杯をするんだよ」"しめ"が大平さんによって消され、"閉会"と書き加えられたものの、さらにそれも消され、「乾杯をするんだよ」のみに。それによって、ホーマーの口の動きにぴったりのセリフ量に。

07:25 仲良し親子に反応するバーンズ「スミサーズ 彼の名前を調べろ」"彼の名前…""彼の名前はなんだっけ?"に変更されています。
バーンズ社長のたまに見え隠れするお茶目さが溢れるセリフ変更ですね。

07:54 ホーマー「社長の前だからって《キス》芝居しちゃって」《キス》の脇に、大平さんが"チュッチュッ"と書き込みされ、最終的な音声では「チュッチュッチュッチュッ芝居しちゃって」になっています。

08:18 良い家族が歌う、童謡「ビンゴの歌」の歌詞も、台本と最終的な音声では全く異なります。
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台本「お百姓さんに犬がいた 犬の名前はビンゴ BINGO(ビーアイエヌジーオー)BINGO BINGO アンド・ビンゴ・ワズ・ヒズ・ネーム・オー!」
音声「大きな家の大きな庭で ビンゴビンゴちゃん ビンゴビンゴちゃん お犬の名前はビンゴビンゴ」

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こちらも、台本は原語版に忠実な訳ですが、そのままメロディに乗せると若干字余りなので、ピッタリはまるようにアレンジされています。

09:13 テレビを観ながら、お行儀の悪い姿勢で夕食をとるファミリーに対するホーマーのセリフ「いいかみんな 昨日やっと目がさめた」"昨日やっと…"の前に、大平さんが"オレは"と書き加えられています。
ホーマーの口の動き的にも、ホーマー自身が感じたことであると明確にするためにも、非常に有効なセリフ追加だと思います。

10:22 ここでホーマーは、今より"Oh!"に近い、"D'oh!"と発しています。
台本では「ホーマー 《 》」とあるのみで、大平さんが"オウッ!"と書き込まれています。
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大平さんの初期"D'oh!"、貴重です。

10:37 笑顔すぎる家族をのぞき見するホーマー「ほら見てみろ」が、「ほれ見てみ」に変更されています。

12:10 ホーマーに過剰に反応する警察犬に対するエディのセリフ「オイ 何うなってるンだ?」「オイ どうなってんだ?」に変更されています。

13:37 モンローのセラピーセンターに電話するホーマー。
原語版では"When will I learn? The answer to life's problems aren't at the bottom of a bottle. They're on TV!"となっていて、直訳すると「いつになったら分かるんだ?人生の問題の答えはボトルの底にはない。テレビにあるんだ!」
(ちなみに、字幕では「俺がバカだった 頼りになるのは酒じゃない テレビだ!」)
台本では、「俺って男は 酒でまぎらわしたって何の解決にもなりゃしねえ《笑》 救いの神はこれよ!」となっており、大平さんが《笑》の下に"ヘヘヘ…"と書き込まれ、"これよ"を消されて、"モンロー(よ)"と書き加えられています。
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こういう部分で改めて、翻訳家の徐さん、演出の春日ディレクター、そして自らホーマーというキャラをディレクションしていた大平さんを筆頭とした演者の皆さん、すべての力が合わさって、名吹き替えが出来ていたのだなと感じます。

・14:43 どうにかしてセラピー代を工面しようとするホーマーのセリフ「どうせうちの子が大学に行くなんて奇跡は起きっこねえんだ」"うちの子が""が"を消され、"は"と書き加えられ、さらに"行くなんて…""く"からが消され、"かない確率の方が高いんだ!"と書き加えられています。
ちょっと冷たすぎると判断されたのか、若干マイルドな表現になっています。

16:37 モンロー「さあ、まず深く深呼吸して下さい」が、「まずは深~く深呼吸して下され」に変更されています。
ここ、恐らくモンロー役の富田耕生さんのアドリブと思われます。
(富田さんも、春日ディレクター作品の常連メンバーの1人。先ほど挙げたホーム・アローンにも出演されています。)

16:40 ファミリーの深呼吸シーン。
音声欄には「全員《 》」とのみあるところ、大平さんが「ウーハーッ」とファミリーの深呼吸の音を書き入れられています。

16:47 お絵描きシーンでのホーマーの鼻歌は、台本上は「ホーマー《ハミング》」とあるのみで、大平さんのホーマー節でお馴染みの、「テーッテレッテッテー」とか「テレッテレッポッパー」みたいな独特なメロディがさく裂しています!
もちろん、続くモンローの「いやテレッテレッ…」というツッコミは台本にはなく、現場でのアドリブ。
このあたりのテンポ感がベテラン同士ゆえのものだなあとしみじみ。

17:46 ファミリーのセラピーバットの叩き合いをけしかけるモンロー「いいぞ!やれやれやれ!」「もっと叩け!」「ホレッ!」は、すべて原語版ではセリフがなく、吹き替え版のオリジナル演出です!

・18:34 セラピー用電気イスの使用説明中のモンローのセリフ、台本上は「つまり前のボタンを押すと同時に家族の一人に電気ショックが流れ…」とあるところ、"流れ"の部分が"ビビビビビビビ"に変更されています。

18:50 嫌忌療法の説明をするモンローのセリフ「そうすればお互いに傷つけあう事をやめるようになります」が、ちょっと人間味のある表現の「お互い痛みを知れば傷つけあう事をやめるでしょうね」に変更されています。

19:26 暴走するファミリーを止めたいモンロー「やめなさい!やめとと言ってるのが聞こえないのか!やめなさい!機械がこわれる!」が、「やめなさい!やめろと言ってるのが聞こえないのか!やめなさい!機械が壊れるでしょ!やめろぉ~~~!」に変更されています。
シャウトのパワーがすごい!

19:37 スミサーズ「これはこれは誰かが電力を大量消費したようです」が、「これはこれは誰かが電力を大量消費していますよ」に変更されています。

19:40 バーンズ「エクセレント・・・エクセレント」
吹き替え版でのバーンズ社長のファーストエクセレント(原語版では、バーンズ社長の初登場エピソードである「ヒーロー誕生」で、はじめてエクセレント(この際の吹き替えでは「結構」)を使用しています)。
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20:15 ホーマー「効果がなければ金を倍にして返すって」の、"金を…"からが大平さんによって消され、"治療費倍返しって"と書き加えられています。
序盤のモンローのCMシーンで使用されていた"倍返し"というセリフを再度登場させることで、あぁあのシーンのか!と視聴者に思い出させるための変更かと思われます。
とにかく視聴者ファーストな作りに惚れ惚れ!

・20:25 お金を倍返し中のモンローのセリフ、台本上は「二の四の六の八の100 二の四の六の八の200 二の四の六の八の300 二の四の六の八の400 二の四の六の八の500ドル!」とあるところ、「二の四の100 六の八の200 九の十の300のチューチューの400のタコかいなで500ドル!」に変更されています。
お金を数えてるだけのシーンなのですが、テンポとリズム感によってここまで面白くなるのかと脱帽です!
また、その直後の「さあ帰って誰にもここに来た事は言うなよ…」"言うなよ""言うんじゃないよ"に変更されています。
キレながらも、なんとか大人の体裁はとってる表現に微調整されています。

おまけ:エピガイのときに書き忘れていたので、台本と直接関係ないですがご紹介。
今回のエンディングのファミリーの後ろ姿、コナミシンプソンズアーケードゲームのエンディングの後ろ姿の元になっていたります。
ゲームをプレイされる方はぜひそこも併せてチェックしてみてくださいね!

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