シンプソンズ・ファンクラブ・ブログ

「ザ・シンプソンズ」を日本で広めるために日本語吹替版のエピソードガイド、グッズを買えるお店の紹介、大平透さん使用のアフレコ台本の研究、等々を掲載しています。

大平さんのシンプソンズ台本:シーズン1「リサのブルース」

シーズン1、第6話「リサのブルース:Moaning Lisa」February 11, 1990(日本初回放送:1992年10月4日、録音日:1992年9月17日)
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20世紀FOXホームエンターテイメントから発売されていた、「ザ・シンプソンズ シーズン1 DVDコレクターズBOX」には、映像特典として本エピソードの原語版の台本の中身が収録されています。ぜひ併せてご覧ください。



<以下、ネタバレになります>


【画面】(台本上の通信欄)

01:29 バスルーム
冒頭の状況説明。

08:58 (同情をこめて)
バートのホーマーに対する「親父ってメチャクチャ下手だねー」というセリフの上に書かれた指示。

11:10 ホーマー《 》
バートに攻撃されるホーマー。音声欄にはバートのセリフが入っているため、画面欄にはホーマーのそれを受けたリアクション(叫び声、うめき声)をバートのセリフに重ねて入れてください、の意味。

21:01 ジャズホール
場面展開の状況説明。


【音声】

01:44 トイレに入りたいホーマー「リサお前まだ入ってるのか!」"お前"が大平さんによって消されています。
また、その後の「おもらしか?《 》」の上に、"ヒヤカシ"という大平さんのメモ書きと、《 》内に笑い声として"ヒヒヒ…"と書き込まれています。
冷やかしてる声と怒鳴っている声の落差もすごいですし、テリー・サバラスの吹き替えよろしく怒鳴り声の迫力がすごすぎます!
日本版シンプソンズの出演者の方々の声の出し方を訓練していない人が真似すると喉を潰してしまう、という話をいろんな方から伺っていましたが、ここなんかは特に顕著ですね。

02:03 焦って車のカギを探すホーマーのセリフ「俺のカギがない!」の下に、大平さんが"情けなく"とメモ書きされています。
また、"カギがない"の後ろに"だ"が追加されています。
さらに、その直後の「仕事に遅れちまう」の後ろに、大平さんによって"ぞ"が書き加えられ、最終的な音声では「仕事に遅れちまう"よ"」になり、より情けなさがアップ。
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とても印象的なホーマー特有の裏返った情けない声ですが、シリーズが進むにつれ、原語版のダン・カステラネタ氏の声の裏返し方が、大平さんのそれにより近づいてくるというミラクルが起きますので、ぜひ吹き替えと原語版の両方をチェックしてみてください。

02:38 リサに教えてもらいカギを発見したホーマー「D'oh!」
台本上は《 》のみで、ここには「ホーマーの大決心」同様、大平さんの書き込みで「オウッ!」(貴重な初期D'oh!)とあります。
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03:00 本編初登場のラルゴ先生
台本上は《ハミング》とだけあるところを、スター・ウォーズ旧三部作のヨーダ役でお馴染みの辻村真人さんによる、絶妙なアドリブハミングが!

04:17 リサに食い物戦争への参加を促すジェイニー。台本上の役名は"ジェニー"となっていますが、これが先にご紹介している「シンプソン家のクリスマス」の台本内で訂正されていましたね。
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04:36 体育教師から攻められるリサのセリフ、原語版では"In other words, to dodge the ball.(つまり、ボールを避ける(=ドッジボール)ってことですね)"なんですが、英語だからこそ成立するセリフなので、吹き替え版では「ドジでノロマなんですアタシ」とアレンジされています。
この吹き替え版のセリフは、TBSドラマ「スチュワーデス物語堀ちえみさん演じる主人公:松本千秋が自称する"ドジでノロマな亀"から来ているものと思われます。
ちなみに、「スチュワーデス物語」は日本航空JAL)を舞台にしたドラマですが、92年の冬からはシンプソンズJALのキャンペーンキャラクターに起用されることになります。

・05:28 ご丁寧にホーマーの紹介をしてくれるバートのセリフ、台本上は「ホーマー・ザ・人間パンチバッグ・シンプソン!」とあるところ、原語版のままの"パンチバッグ"という名称が日本では馴染みが薄いからか、最終的な音声では当該部分が"サンドバッグ"になっています。

05:34 バートにこてんぱんにされるホーマー、台本上は「《あーっ》汚いぞ!」とあるところ、最終的な音声では「《あーっ》汚ねえ!」に変更されています。

05:42 ゲーム上で倒れたホーマーのプレイキャラに対してのホーマーのセリフ、台本上は「よし立ったぜ」とあるところ、最終的な音声では「よし立った立った立った!」に変更されています。
他の唸り声も大平さんのアドリブですが、本当にゲームをプレイしているような躍動感があるお芝居です。

06:51 リサの悩み相談に乗ろうとするホーマーのセリフ、台本上は「何でも話してみなさい」とあるところ、最終的な音声では「話してみなちゃい」に変更されています。
我が娘とどう向き合えばいいのか葛藤している、不器用ながらも一生懸命なホーマーの雰囲気がよく表れているアレンジかと思います。

07:09  お馬さんごっこ中のホーマーのセリフ、ギャロップ!ウィ~」の後の《 》内に、大平さんによって"ウイヒヒ…"との書き込みがあります。

07:11 リサを慰めるマージのセリフ、台本上は「ねえリサ上へ行きましょ、ママがあつーいお風呂ためてあげる」とあるところ、大平さんも書き込まれていますが、"あつーい""あたたかい"に、"ため""入れ"に変更されています。
より自然な日本的な表現になっていますね。

07:17 直前のマージのセリフを受けたリサのセリフ、台本上は「(ありがと)気持ちだけは受けておくわ」とあるところ、最終的な音声では、「(ありがと)気持ちだけいただく」に変更されています。
セリフの時間的な都合と、"受けておくわ"だとちょっと冷たく聞こえてしまうと考えられたことによる変更かと推測します。

08:41 またもこてんぱんにやられるホーマーのセリフ、台本上には「あーやめてくれ そんな 何やってンだ反撃しろ反撃 やめろバカ《 》 打つな打つんじゃない あー又やった あー! 何でやめて あーっ こんなのアリか! 《 》」とありますが、そのセリフの上に"AD"つまり"アドリブで"との指示があります。
その結果、最終的な音声ではちょっとアレンジされた、「あーやめてくれ そんな 何やってンだ反撃しろ反撃 やめろバカ《 》 打つな打つんじゃないってばさ あー又やった あーごめん やめろってば こんなのアリかよ! 《おー》」になっています。

・09:01 ゲームの下手さをバートに指摘されるホーマーの言い訳、台本上は「下手じゃないッ! ただレバーが…あの騒音のせいで集中できないんだ」
とあるところ、"レバーが…"の下に大平さんによって"いや"と追加で書き込まれ、より自然なセリフに変身しています。

09:15 リサを注意するホーマーのセリフ、台本上は「リサ!家では音出して練習しない約束だろ」とあるところ、最終的な音声では上記のセリフの最後に"が"が追加され、大平さんの声のトーンも相まってホーマーの怒った雰囲気がより増幅するセリフになっています。

09:22 涙声のリサのセリフ「ご免」
神代さんによるリサの泣きのお芝居は、観ているこちらまで胸が締め付けられるような表現力です!

09:29 とっさにリサを慰めようとするホーマー、台本上は「ブルース吹いて少しでも気が晴れるならやんなさい」とあるところ、大平さんによって最後の"さい"が消されています。
2文字削っただけなのですが、なんだかよりホーマーの温かさが出ている感じがします。

11:06 夢の中でまでこてんぱんにされるホーマーのセリフ、台本上は「お前の親父だぞ」とあるところ、大平さんによって"親父"が消され、そこに"パパ"と書き加えられ、最後に"オレは(おりゃ~)"が追加されています。
直前にバートはホーマーのことを親父と呼んでいるわけですが、あえてここでホーマーが自分のことを"パパ"と言うことで、良き父親としての自らの価値をアピールしようと必死になっている感じが伝わって来て、より滑稽なシーンになっています。

11:19 絶叫しながら飛び起きるホーマー、台本上は「《悲鳴》」とあり、その下に大平さんによって叫び声の"ワーッ"が書き込まれています。
さらに、セリフ自体を囲って、"オンリー"(大平さんだけの抜き録り)とも書き込まれています。
約4秒間の大絶叫ゆえ、ほかの出演者の方々との掛け合いでは録音せず、後から録音したということですね。
この大絶叫シーンの迫力とボリューム、こんな声出せるのは本当に大平さんだからこそ。
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12:09 リサを指導するマーフィのセリフ、台本上は「いや ローBフラットだ」とあるところ、最終的な音声では「いや ローBフラだ」になっています。
略語を使うことで音楽家っぽさを出すための変更ですね。

12:52 名シーン、リサとマーフィのジャムセッション
歌詞は、台本と最終的な音声では、語呂の都合で少し変更されています。
(台本)
マーフィ「俺は淋しい 女はズラかった 財布はカラだが 物価は高い 俺は淋しい 生まれた時から そばにあるのはこいつ さびたサックスだけ」
リサ「私のイヤなお兄ちゃん 毎日いじめるの 今日は私のママが最後のカップケーキをやっちゃった~パパもお兄ちゃんと同じ まるで動物園 私は淋しい少女A 小学二年の少女A」
(音声)
マーフィ「俺は淋しい 女はズラかった 財布はカラっぽ 物価は高い 俺は淋しい 生まれた時から そばにあるのはこいつ さびたサックスだけ」
リサ「私のイヤなお兄ちゃん いつもいじめる 今朝ママが最後のカップケーキをやっちゃった~パパもお兄ちゃんと同じ まるで動物園 私は淋しい少女A 小学二年の少女A」
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ちなみに、このシーン、配信では吹き替えのトラックが抜け落ちており、原語に切り替わります。
そのため、ほかのシーンでは吹き替え音声で字幕OFFにして再生しても、原語版流用の歌のシーンには歌詞の字幕が表示されますが、ここでは表示されません。
これは、字幕OFF再生=DVDに収録されていた"吹替用字幕"のデータが表示されるところ、当該シーンはDVDでは吹き替えになっており、そもそも字幕データが存在していないため。
一方、DVD及びVHSには放送当時の吹き替えされた歌声が収録されていますので、気になる方はそちらをぜひぜひチェックです。
(「シンプソン家のクリスマス」のエンディングの「赤鼻のトナカイ」合唱シーンも同様)

14:51 テレビを観てむせるホーマー、台本上は「《 》ウソだろ!」とあるところ、《 》の中に"ウーゴホッ"と大平さんによって書き込まれています。

15:08 ホーマー「バート!」
原作者/製作総指揮のマット・グレーニング氏が、ホーマーがバートの名前を怒鳴るときの声は犬を鳴き声をイメージしていると語っていましたが、吹き替え版での「バート!」も、原語版のダン・カステラネタ氏の犬の鳴き声のイメージを尊重した上、さらに迫力も追加しているという、大平さんのこだわりが感じられます。

15:43 2回目のバートによるモーの店へのイタズラ電話
今回の偽名は「サルー・マター」
原語版では、"Jacques Strap(男性のスポーツ用下半身サポーター)"であり、股繋がりで非常に秀逸な吹き替えに仕上がっていますね!
ちなみに、モーの呼び出しセリフの最後は、台本上「サルー・マターさんサルー・マターさん」と繰り返しになっていたところ、最終的な音声では「サルー・マターさんいませんか?」に変更されています。
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17:36 ゲームのコツを完全につかんだホーマーの笑い声、台本上は「《笑う》」とだけあるところ、大平さんが"ヘヘヘヘ!"と書き加えられています。

19:24からのマージとリサのシーン。
セリフもとっても素敵な上、一城さん、神代さんのお芝居によって、かなりグッとくるシーンになっています。

19:55 コツをつかんで自信満々のホーマーのセリフ、台本上は「やれるもんならやってみろ《 》」とあるところ、最終的な音声では「やれるもんならやってみろってんだ」になっており、《 》内には大平さんによって"ヘヘヘ…"と書き込まれています。

20:52 バートの引退表明に泣き出すホーマー
台本上は《 》とだけあるところ、大平さんが"オホホホ…"と書き込まれています。

21:25 マーフィの歌のシーン。
台本上は、吹き替えのセリフ欄に以下のとおり記載があります。
「私のイヤなお兄ちゃん 毎日いじめるの 今日は私のママが 最後のカップケーキをあげちゃった~ パパもお兄ちゃんと同じイ まるで動物園 私は淋しい少女A 小学二年の少女A」
当初は吹き替えされる予定だったようですが、ラストは原音の歌声をじっくり聴かせる演出なのか、WOWOW放送時も字幕対応されました。
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また、途中チャチャを入れるホーマーのセリフ、台本上は「何だ?」とあるところ、大平さんによって"?"が消され、"と"に変更されています。
歌の間に挿入されるセリフということもあり、テンポが良いツッコミにするため、また明確に歌詞に対してツッコんでいると分からせるための変更かと思われます。
このような1文字単位の微調整に抜かりがないところも、大平さんをはじめスタッフの皆さんがそれだけ力を入れていた証拠ですね!


・おまけ(今回のワンポイント)
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The Simpsons Gentle Giant Bust-Ups Serie 3 - Lisa and Murphy (variante)
2006年の商品。当時は、現在のブリスターコミックスさんが日本の代理店となって販売されていました。