シンプソンズ・ファンクラブ・ブログ

「ザ・シンプソンズ」を日本で広めるために日本語吹替版のエピソードガイド、グッズを買えるお店の紹介、大平透さん使用のアフレコ台本の研究、等々を掲載しています。

追悼:天才的な悪ガキを天才的に演じた、バート役・堀絢子さん


紆余曲折あり、最後の最後まで配役が決まらなかった日本版『ザ・シンプソンズ』のバート役
番組立ち上げ時の音響監督・春日正伸さんが最後にバート役に指名したのは、困ったときには間違いなくキメてくれることから、当時春日ディレクターが“声優界の女神様”と呼んでいた堀絢子さんでした。
共演されたマージ役の一城みゆ希さん、リサ役の神代知衣さんをはじめとする日本版シンプソンズメンバーも、堀さんのバートを大絶賛!
そんな堀さんの合流を経て、満を持して日本でのシンプソンズの歴史がスタートしたわけです。

堀さんがそれまで演じて来られたたくさんのヤンチャだったり悪ガキだったりする男の子キャラ(『トムとジェリー』(ジェリー役)、『ガンバの冒険』(イカサマ役)、『新・オバケのQ太郎』(Q太郎役)、『チンプイ』(チンプイ役)、『新・ど根性ガエル』(五郎役)、『アーノルド坊やは人気者』(アーノルド役)等々)の経験、そしてそのテクニックで、みんなに愛される天才的な悪ガキ“日本版バート・シンプソン“を生み出してくださいました。

演技の組み立て方次第では悪ガキキャラは嫌な奴に映ることも多いかと思いますが、堀さんが演じられるバートをはじめとする悪ガキキャラは、人間味があって温かくてどうしても憎めない、かわいい子たちばかりでした。
そのちょうどいい塩梅は、堀さんだからこそ出せたものなのだと強く思います。

日本テレビ史におけるアニメの日本語吹き替え声優第一号であった声優界のパイオニア大平透さんの爆発的な表現力と迫力が注ぎ込まれた、誰も太刀打ちできない“日本版ホーマー・シンプソン”の息子にして、よき理解者、そして相棒ともいえるバート役もまた、膨大なキャリアと確かな表現力の堀さんでなければあの心地よい“日本版ザ・シンプソンズ”のハーモニーは生まれていなかったと思います。
豪快で大迫力な大平さんとは対照的に、物静かなイメージの堀さんですが、その小柄な身体に秘めたるとんでもない情熱を作品の中で爆発させておられたことは、完成した作品を観れば一目瞭然。
また、プロ歌手でもあった堀さんはシンプソンズのスタジオにおいても、同じくプロ歌手であったマージ役の一城みゆ希さんとともに、劇中歌の収録の際には自ら指揮をするなど、バートの声以外でも高クオリティの吹き替え版に貢献されていたそうです。


我々が初めて堀さんにお会いしたのは、2008年5月の『第1回シンプソンズファン感謝祭』
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バートのパワフルなお芝居が、まさかあの小柄な堀さんから生み出されているとはにわかには信じられないでいましたが、本番になり堀さんからバートの声が飛び出た瞬間、「あぁ!本物のバートだ!!」と心から感激したことは決して忘れることはありません。
また、その際のゲームコーナー「負け続けてゲットだドォッ!~バートのじゃんけん大会~」は、堀さんがバートの声で出す手を宣言(当然そのとおり出すかは不明!)、それに勝った人ではなく負けた人が勝ち残るというスタイルのじゃんけん大会で、一筋縄ではいかないバートの性格を心から理解されている堀さんのご提案で生まれたコーナーで、大いに盛り上がりました。



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↓イベント後、展示コーナーにもお運びいただいた堀さん。
バートが大好きなシンプソンズFC初代会長・のんちゃんが「オレはやってないよ!」とつぶやきながらバートのゲームをプレイ中、後ろから堀さんがバートボイスで「オレはやってないよ!」と連呼していただき、来場者・スタッフ一同大盛り上がり!!

以降、4回開催されたファン感謝祭にもすべてご参加くださり、バートの声で会場を度々沸せてくださいました。
本当に大袈裟ではなく、バートのあのパワフルボイスが堀さんから飛び出した瞬間、毎回感動で会場がざわつきました!







お酒が大好きだった堀さんとお酒の席をご一緒させていただけたのも良い思い出です。

舞台のための健康づくりとして毎日の運動を欠かさなかった堀さんでしたが、お酒も大好きでいつも楽しみに飲まれていたそうで、「人生、良いこと半分、悪いこと半分だよ!」とお話されていたそうです。
これも、なんだかバートっぽくて微笑ましいですし、そして何よりかっこいい!!
堀さんのお芝居の爆発力に、この切り替えの精神がよく表れていたと思います。

そして、堀さんといえば忘れてはならないのが、毎日運動されていた理由であるライフワークのひとり芝居『朝ちゃん』

軍医であったご自身のお父様が広島の原爆で亡くなられた経験から、児童文学作家・山本真理子さんの『広島の母たち』を原案にした反戦反核のひとり芝居『朝ちゃん』の“反戦“にかけて500回(半千→1000の半分)公演を目指し、手弁当で全国各地を回られており、1989年のスタートから数えること261回もの公演を重ねておられました。
その『朝ちゃん』も、11月22日(金)に“ひとり芝居”から“ひとり語り”として新たな形式での公演となる予定で、堀さんも関係者やファンの方々に自らご案内のお手紙をしたためておられましたが、公演を週末に控えられた18日に、台本を見ながら旅立たれたそうです。そして、その傍らには大好きだったお酒が。

突然の旅立ちはとても悲しいですし、堀さんも『朝ちゃん』の公演ができなかったことが心残りかと思いますが、最期まで心から愛するお芝居と向き合われながらという、大好きなものに囲まれた中での旅立ちは、“役者・堀絢子さん”として、美しく、とてもご立派でいらっしゃったと思います。
近年でも、インドからのラブコールで実現した『忍者ハットリくん(インド版)』(ハットリくん役)や、NHK Eテレのご長寿番組『新・ざわざわ森のがんこちゃん』(ピロくん、がんこちゃんのおばあちゃん役)、『トムとジェリー』シリーズ(ジェリー役)にもご出演を続けられ、声の世界でも、舞台の世界でも、まさに生涯現役の人生を送られました。

天才的な悪ガキを、その天才的なセンスで演じ切られた堀絢子さん。
堀さんが生み出されたたくさんのお芝居は作品の中で永遠に輝き続けます。

堀さん、心から感謝申し上げます。
愛を込めて・・・「アイ(愛)カランバ!!」

シンプソンズFC一同