シーズン3、第11話「ホーマーはクビ!:Burns Verkaufen der Kraftwerk」December 5, 1991
(日本初放送:1993年11月27日、録音日:1993年8月30日)
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台本の表紙には大平さんの遊び心溢れる落書きが!
お馴染みシンプソンズの日本版タイトルロゴのナカグロ(・)はバートがイタズラに使うような弾けた感尺玉に、「ズ」の点々は鼻の穴にそれぞれ大変身(笑)
ちなみに、邦題は台本の段階では「ホーマーはクビ」でしたが、オンエア時には「!」がついた「ホーマーはクビ!」になり、現在に至るまで左記タイトルが使用されています。
<以下、ネタバレになります>
【画面】(台本上の通信欄)
・01:39 原音 「私には単なるシャンプーの力も届かない」 トラは創作
バーンズのセリフにアレンジを入れているという旨の注釈。
翻訳家の徐さんが、日本語を話すバーンズはこういう言葉遣いをするはず!とドンピシャなセリフを当てはめられています。
ちなみに、台本上では「弱ったトラには及ばない」になっていますが、最終的な音声では「弱ったトラには及ばないか…」になっており、翻訳の良さとバーンズ役の北村さんのお芝居の合わせ技で、最強の吹き替えに仕上がっていることがよく分かります。
・02:58 原音 「おたくの株のブローカーだが」
こちらでも徐さんの絶妙な日本語アレンジが!
エイブじいちゃん役の滝口さんが演じられるインチキ臭すぎるブローカー、良すぎます。
・04:28 原音 「1ドル1/8」
・04:46 字幕 「チョコ」 04:53 字幕「パンツでもかぶってろ」
・05:37 原音 「ここらへんの人じゃないね」
ホーマーがドイツの会社の人間と話すシーン。
最終的な音声では「あんた等ここら辺の人じゃないね?」と、よりホーマーらしい言葉遣いへ。
・07:56 ナイン ドイツ語 Nein
※おそらく転記ミスで順番が異なっています。バーンズがケント・ブロックマンのインタビューを受けているシーンの注釈。
・06:11 原音 「魔法のマメ」
パティのセリフ、最終的な音声では「悪徳商法のつぼ」と、実に日本らしいブツにアレンジされています。
・06:18 原音 「これからは何もかもよくなる」
徐さんの手にかかると、日本語を話すマージらしく「これからはうーんと暮らしやすくなるわよ」に!
・06:58 発電所
状況説明
・07:41 原音 「ドイツのコンソーシアム」(A.資本合同借款団 B.一時的提携) この場合Bだと思いますので分かりやすく会社にしました
バーンズに突撃するケント・ブロックマンのセリフで、最終的には「ドイツの会社」と訳されている部分の注釈。
・07:59 字幕 「牛肉がうまい」「おべっか使いが私を天才だと」「いい条件だと思いますが」「結論を言え」
キャラたちがドイツ語で話すシーン、セリフ欄には吹き替えのためにドイツ語をカタカナ表記にしたものが入っています。
北村さんたちの発音も本格的です!
・08:41 字幕 「ダイアモンド ジョー クインビー」
・09:05 パティキュラファイヤー(辞書にのっていない 架空か?)
カールが話している機械の名前。
ネットが一般的でない時代、吹き替え版の台本が完成するまでには今以上に数々の困難が。
・09:48 原音 「その後は通常通り給料は満額払います」
ホーストのセリフ、最終的には「その後_通常通り 給料を全額支払います」と訳されている部分の注釈。
ほぼ同じなのですが、細かな部分にまでこだわられてセリフ作りがされていることがよく分かります。
・10:22 元のギャグが英語をたんにドイツなまりでいってるだけ
ここでも徐さんのセンスが輝きます!
もちろん、それっぽい発音でセリフを吹き込まれる演者さんのセンスも!
・11:23 原音 「時間を守る 約束をたがえない」
リサのセリフ、最終的には「ちゃんと時間を守って約束は絶対に守るからよ」に。
・12:08 朝
状況説明
・14:29 原音 「レイオフ」
ホーマーに解雇を告げるホーストの声
・14:41 字幕 「ニンジンキャットフード 88%灰 12%ニンジン」
・16:47 原音はワキガ ガーとワッキ(ワッキガーさん)で作れますが差別になるとまずい為変えました
シンプソンズは元から先進的な作品ですが、日本版を制作するにあたってもこの時代から翻訳家の徐さんや制作スタッフのみなさんはさらにコンプラを重視されていました。
結果、徐さんのいい塩梅にお下品なワードセンスで「マー・ルダシーさん」が当てはめられ、それに対応してバーニーのセリフもアレンジ(「(モーの事を指して)いるよ いる」→「変態か」)されました。
・19:24 原音 「切手ははらなかったから」
原語版では切手=スタンプなわけですが、最終的にはバートのアクションに合わせて分かりやすくそのまま「スタンプ押さなかったからだぁ!」になっています。
・21:28 ダモクレス 王の幸福をあまりほめたので王が彼を王座につかせ頭上に毛髪一本で剣をつるし王の身辺には絶えず危険が迫っている事を悟らせた
原音ではこういっているという注釈ですが、こちらも最終的なセリフでは実にバーンズらしい日本語を話しているシーンに仕上がっています。
【音声】
・01:27 最新のシャンプーについてうれしげに語るスミサーズにバーンズは…
台本上「そりゃ凄い」とあるところ、最終的な音声では「そりゃ凄いな」になっています。
たった1文字分の「な」の追加ですが、この「な」の中にバーンズの投げやりかつ無気力な心情が、北村さんの演技により見事に詰め込まれています。
また、その後の「人生はなんだろうか」は「人生ってなんだろうか」になっており、ここでも北村さんバーンズがたまに見せる切ない老人の一面が表現されています。
・01:56 子供時代の思い出を話すバーンズ
台本上「満塁ホームランと国をゆさぶる作家になる事を夢みてた時代が」とあるところ、最終的な音声では「満塁ホームランと国をゆさぶる作家になる事を夢み_た時代がな」に、またその後の「核分裂の管理はストレスがたまるからね」は、「核分裂の管理はストレスがたまるからな」になっています。
徐さんが生み出されたバーンズらしいセリフを、役を演じる北村さんがさらにバーンズらしく肉付けされています。
・02:16 スナックを買いたいホーマー
台本上には何の指示もないため、大平さんが原音を聴かれた上でホーマーの鼻歌をメモされています。
そして、ラストにはしっかり「ドッ」のメモも!
・02:30 スナックが買えなくて情けない声を出すホーマー
大平さんホーマー定番の「トホホ…」、いい味が出すぎです!
・02:45 スナック自販機にリベンジするホーマー
ここにも大平さんによるホーマーの息遣いのメモ。もちろん再び「ドッ」も。
・03:13 ホーマーから情報を引き出そうとするブローカー
台本上「取引する前に聞いときたい事があるんです」とあるところ、最終的な音声では「取引する前に聞いときたい事があるんですわ」に。
インチキ臭いブローカーが、インチキ関西弁でさらにインチキ臭さに拍車をかけており、滝口さんの事前に練りに練られてきたアレンジが輝いています!
・03:17 ホーマーのブローカーのやりとり
台本上、ブローカー「家族は健在?」→ホーマー「ええ」→ブローカー「スポーツは好き?」→ホーマー「ええ」→ブローカー「ダンスには行く?」→ホーマー「昔はね」→ブローカー「一度会いましょうか?」→ホーマー「いいよ」とあるところ、大平さんと滝口さんによって手が加えられ、ブローカー「家族は健在?」→ホーマー「はい」→ブローカー「スポーツは好き?」→ホーマー「ええ」→ブローカー「ダンスには行く?」→ホーマー「昔は_」→ブローカー「_会いましょうか?」→ホーマー「OK」に。
このテンポ感、吹き替え創成期(大平さんは日本テレビ史におけるアニメの日本語吹き替え(生吹き替え)声優の第一号で、滝口さんは実写の日本語吹き替え(同じく生吹き替え)声優の第一号でした)から活躍されるお2人の名人芸は贅沢すぎます。
・03:24 調子はどうだと聞かれたブローカー
台本上「《 》もうボロボロ」とあるところ、最終的な音声では「《リアルな咳き込み》_ボロボロ」に、さらにその後の「でも100株ですから今売れば25ドルになりますよ」は「でも100株ですから今売りゃ25ドルになりますよ」になっています。
細かなところにも滝口さんの技が光ります!
・03:45 25ドルに喜ぶホーマー
原語版では“Twenty-five dollars!”と価格を言っているだけなのですが、翻訳家の徐さんのセンスでここに「棚からボタモチ25ドル」が当てはめられています。良き時代のテレビ吹き替えならではの翻訳で最高です!
・03:52 妄想中のホーマー
台本上は「《 》ワックスをかけて…」とあるところ、最終的な音声では「《ハァ》ワックス_かけて…」になっています。
大平さんも細かな部分まで一切妥協されません!
そして、本シーンの台本画像からも分かるように、一度取れてしまったページをテープで貼られています。
ご自宅でのVチェックも入念にされていたことがよく分かる部分でもあります。
・05:01 ホーマーの今日の注文は…
台本上「ダフのスペシャルリザーブ」とあるところ、大平さんによって手が加えられ「ダフのスペシャルリザーブだ」になっています。
追加されたちょっといやらしい感じの「だ」に、ホーマーが調子に乗っている感じが詰め込まれています。
・05:17 羽振りが良くなった理由を自慢げに話すホーマー
台本上「もう発電所なんかやめちゃって株の世界で生きてこうかな」とあるところ、最終的な音声では「もう発電所なんかやめちまって株の世界で生きてこうかな」になっています。
・05:48 ドイツ人社長ハンス(演:広瀬正志さん)
ドイツの人間であると明かしてから片言で話すハンス。
台本上はただセリフがあるだけですが、現場で片言で話すように変更されたようです。
・06:47 マージにテレビを見るように指示されるホーマー
台本上は原語版の“What?”に忠実に「何?」とあるところ、大平さんによって手が加えられ「え??」になっています。
ボケ~ッとしたホーマーを演出するための、気の抜けた「え??」の表現、こちらも職人技です。
・07:28 若返りの整形をしてDT中?のレニー
台本上「そう?目のしわとりの他色々やったから」とあるところ、最終的な音声では「そう?目のしわとりの他色々やったからね」になっています。
朝戸さんの語尾の処理でよりかわいいレニーが完成してます。
・08:44 不安な社員たちの声
社員3のセリフ「どうなるんだろ」は最終的な音声でも台本通りではありますが、滝口さんがアテられるだけで面白くなるのはさすがです。
・11:10 リサに助けを求めるホーマー
台本上「リサ パパを助けてくれ」とあるところ、最終的な音声では「リサ パパを助けてよ」になっています。
大平さんホーマーの甘えたような自信なさげなセリフ運び、本当に魅力的です。
・12:22 即席安全管理担当者ホーマー
台本上「オイそこ 何やってる!」とあるところ、最終的な音声では「オイそこ 何やってんだ!」になっています。
慌てた棒読み感、こちらも大平さんの技が光ります!
・13:24 チョコレートの国の住民ホーマー
“The Simpsons Game”でもチョコの国のステージがあったほど、人気なシーン。
ホーマーの息遣いもすべて大平さんが吹き替えられています。
なお、「ワオチョコレートが 半額」とあるところ、最終的な音声では「ワオチョコレートが 半額だあ」になっています。
・14:20 シリーズ屈指の名台詞!レニーの名言
原語版“They've made mistakes in the past, but that's why pencils have erasers.”→吹き替え版「過去に過ちは犯したけどだから鉛筆にも消しゴムがつきものなんだ」
・14:37 社内放送でホーストからクビを告げられるホーマー
原語版では無音の部分に、吹き替え版では大平さんホーマーの声で力なく「アラ…」と吹き込まれています。
ここは台本にも特に指示はないことから、大平さんの演出家としての視点で追加されたものと思われます。
・14:47 今回のバートのイタズラ電話
原語版では“Bea O'Problem”=“B. O. problem(体臭)”ですが、吹き替え版では「マー・ルダシーさん」に。
詳細は画面欄をご覧ください。
・18:05 “Teddy Bear's Picnic”を歌うバート
台本上「いい子だったテディベアはいい事があるよ おいしいものがいっぱいあって面白いゲームもいっぱい 木の下は誰も見ない 好きなだけやるよ鬼ごっこ テディベアが出かけるよピークニック」とある歌詞は、メロディに合わせるために現場で変更がかかったようで最終的には「いい子のところにはいい事がある おいしいものいっぱい持って出かけよう 小グマも一緒にゲームに鬼ごっこ みんなで遊ぼう さぁピークニック」になっています。
もちろん、過去にはCMソングも数多く歌われたプロ歌手でもあるバートの堀さんのキュートな歌声も必聴です!
・19:01 バーンズに迫るホーマー
台本上「夜帰った時札束はあんたを抱きしめてくれるか?」とあるところ、最終的な音声では「夜帰った時札束はあんたを抱きしめてくれるかよ?」になっています。
セリフをギチギチに詰め、畳みかける必死なホーマーを大平さんが演出されています。
・19:10 嫌味に歌うホーマー
大平さんの台本にも音符が踊ります。
・19:33 スチームの"Na Na Hey Hey Kiss Him Goodbye"を合唱するホーマーたち
大平さんのメモからも分かるように、バーンズのセリフと被るため、歌うシーンは抜き録りされたようです。
・20:47 暴走するバーンズ、止めるドイツの人たち
台本からも会話がゴチャゴチャしている感じが伝わってきて楽しい。
・20:59 追い払われる子供たち
マージの一城さん、バートの堀さん、リサの神代さん、パティの鈴木さん…女性キャスト総動員で子供たちのガヤを演じられています。
・21:28 ダモクレスの剣の話をするバーンズ
こちらのシーン、バーンズがペーパーナイフを吊るすアクションをする際に、日本オリジナルの演出で剣の音のSEが追加されています。
こういうところも、良き時代のテレビ吹き替えっぽくて実にエクセレント!です。
また、北村さんのこの際のシリアスなバーンズの演技に、その直後の大平さんの対照的に能天気なホーマーの演技のコントラストがまた良いのなんのって!